硝子玉
きらきらと煌めくそれは。
美しくて、脆いけれど。
「沙紀。こんなとこに……」
「ゆーじろ、……見てみて」
「ぬーがぁ?」
夏休みに隣のおばぁの家に遊び来た沙紀。
夜な夜な家を抜け出しては、わんが捜しに行くのが最近では当たり前になっていた。
今日は、海辺の方に来ていたのだけど。
声を掛けたら腕を引っ張られ、強制的に横にしゃがませられる。
顔が近い……。
「ほらコレ!……こないだ木手くんに聞いたの。こっちの浜辺にキラキラ光る石があるって」
「えいしろーのヤツ……沙紀に余計なコト吹き込まないでほしいさぁ……」
「?何か言った??」
「うわ、…ふらーっ!」
沙紀が急に此方を向くもんだから、顔がぶつかるかと……キスしてしまうかと思って、わんは慌てて立ち上がった。
言った本人はキョトンと此方を見上げている。
「や、やーはもっと危機感をもつべきやっし!」
「危機感〜?……ゆーじろ、言ってるいみわかんないよ」
怒って言い聞かせても、軽く流されてしまう。
「えいしろーとか!凛とか!簡単にホイホイついてったりしてないんばぁ?!」
「なにそのGホイホイみたいな言い方……」
呆れた表情で見上げてくる沙紀に、なるべく真剣にあいつらがどんくらい危ないか伝えようとするけど、なんか上手くいかない。
「とにかく!沙紀はもっと、自分が可愛いって自覚するべきさぁ!」
「………え?」
「…………あ」
煌めく濃紺の瞳が、わんをまっすぐに見つめる。
わんは、自分の失言に気づくまで、かなりの時間を要した。
認めれば一気に、顔が沸騰するかと思うくらい熱くなる。
沙紀がただ、いつもみたいにこっちを見ているだけで、恥ずかしくてどうしようもない。
目を合わせられなくて、思いっきり視線を反らした。
夜の色に染まった海にきらきらと映る月の光だけが、わったーを包み込む。
「……ゆーじろ」
「…………。ぬーがや…」
聞いたことないくらい、柔らかい声音が耳に届いて。
ゆるりと顔を上げる。
そこにあった笑顔に、わんの心臓はどぅんどぅんと高鳴って。
気がつけば、思いっきり沙紀を抱き締めていた。
「……なんか、沙紀……壊れそうさー」
「ばっか。そう簡単に壊れないって」
軽い調子で答える沙紀の腕が、わんの背中に回ったのは、つまり、そういうことだと思う。
何となく言葉を紡ぐのが躊躇われて、わったーは暫くそうやって、抱き締め合っていた。
幸せを、はんぶんこしよう。
それはとても美しくて、脆いものだけれど。
きっと、きみとなら。
――――――――――
途中から迷走した。
(11/11/22)
[ 145/202 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]