遠く近く




初対面の時から、彼の微笑みには確実に裏があると疑わなかった。

だけど、三年間。
彼は一度も隙を見せることは無くて。

生死の境をさ迷った挙句、更に強固な笑顔の鎧を身に纏って、コートへと帰ってきたんだ。




「……黒河」

「なに?」

「…そんなに見つめられたら、穴が開いてしまうよ」


穴が開いたら、その笑顔の裏が見えるかしら?

そう問い掛ければ、穏やかな笑顔のまま、


「フフ…どうだろうね。俺にも、開いてみないコトには分からないな」


と返されてしまった。


いつだって、幸村は私の届きそうな位置に立っている。
なのに、いくら手を伸ばしてみても、彼には絶対に届かない。

きっとその絶妙な距離感は、彼自身が意図的に創り出しているモノなんだろう。


歯痒くて、もどかしくて。
私はいつも必死に手を伸ばし続けている。


「…幸村って、酷い人ね」


無意識に呟いた言葉に、初めて彼は顔を上げた。

綺麗な色の瞳と出合う。


「それ、俺に言うのかい?」


「…、ぇ…」


形容し難い表情で告げられた言葉は、私には理解しかねるもので。
困惑したまま見つめ返せば、


「黒河の方が、よっぽど“酷い人”なんじゃないか?」


そう、告げられた。


「こんなにも君に近付こうとしてる俺を、簡単にかわしてく」


「…な、に言って…」


驚きのあまり言葉が上手く出てこない。

幸村が、私に?


「ねぇ、君の言葉の裏には、何が隠されているのかな?」


ドクン、と一つ胸が高鳴る。

不愉快じゃない、感覚。


「幸村」


「なに?」


「私達、お互いを遠ざけていただけみたい」


「そうだね。今、俺もそのことに気づいた所だよ」


きっと、近付こうと足掻いてる内に、一番重要な事を見失ってたのね。


「黒河」


ほら。
私を呼ぶ貴方は、こんなにも近くに居る。


「君をもっと知りたいんだ」


私に触れる貴方は、こんなにも温かい。


ああ、なんて単純。



私も貴方をもっと知りたいって事。







――――――――――
たいせつなことは見えにくいよ。って話(わかりにくい)
(11/02/19)


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