am1:44
「やー、いつまでいるつもりやさ」
「ん〜…凛が幸せになるまで」
「そんなん待ってたら、わんがおじぃになっちまうしよー」
沙紀が困った様に首を傾げる。
ほんとに困ってるのは、わんの方やっし。
物心ついた時から沙紀とはずっと一緒にいて、どこに行くにも二人だった。
明け方に突然叩き起こされて朝陽を見にチャリ漕がされたり、夜中にこっそり家抜け出して海辺で星を眺めたりした。
それはきっと変わらない日常で、いつかこのまま沙紀と結婚するかもとかアホなことまで考えてたくらいだ。
そのくらい沙紀は自然に傍にいて、わんにとって無くてはならない存在だった。
だけど。
別れは、唐突だった。
夏の暑い暑い日に。
沙紀は。
「まぁ、実際そんな悠長なこと言ってられないんだけど」
苦笑混じりに呟く沙紀の姿を透かして、まんまるな月が覗く。
「凛のコト、心配さぁ」
沙紀が見たことないほど、綺麗に笑った。
「……っ、ふらー……それはわんのセリフやっし……!」
うっすらと、透けていく。
その身体を、抱き締める。
でもそこに温もりはなくて。
沙紀の柔らかさも、てぃーだみたいなあったかい匂いも。
もう、何も感じない。
「……り、んっ……わた、し……っ消えたく、なぃ……」
沙紀を繋ぎ止めたくて、必死で力を込める。
けど、徐々に薄まる感覚を、何処かで感じていた。
「……かなさんどー…ずっと、沙紀だけを…好きでいるさー」
「……っ」
きらきらと。
沙紀は光に溶けた。
まるで、いつか一緒に見た、海の水面に揺れ光る星屑みたいに。
囁くような優しい声が、わんの耳には聴こえた。
『凛、わたしも…かなさんどーよ』
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愛しいひと。きっと私を忘れてね。
(11/11/18)
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