眼鏡依存症。
朝、教室に着いてから気づいた。
「やべぇ、眼鏡忘れてきた…」
視力がそれなりに低い私は、授業中は眼鏡がないとノートが取れない。
それなのに、その大事な眼鏡を、家に忘れてきてしまった。
今日一日どうすんだコレ…と考え込んでたら、隣の席の関西弁から飄々とした様子で話しかけられる。
「ええやん。なくてもかわええんやし」
「…そゆ問題じゃねぇし、アンタの眼鏡と一緒にすんな。眼鏡レベルが違うんだよ、眼鏡レベルが」
テニス部の忍足。私の天敵。
そんなに目ぇ悪くないくせにビジュアル重視で眼鏡を着用している、非常に腹立たしい男だ。
一発睨みをかまして席に着けば、なぜかニヤついてる似非メガネがこちらをガチ見している事に気づく。
「……なに?」
「ノート、見したろか?」
「いらん」
「即答かいな…」
私だって友達いない訳じゃないんだから、一日分のノートのコピーを取らせてくれるアテくらいある。
以前から何かと話し掛けてくる彼の意図が掴めない。
「つかさ、アンタこそ…眼鏡(それ)なくてもイケメンなんだから、要らないんじゃない?」
「…っ!」
目が悪いが故の宿命だけど、私はすっごい目を細める癖がある。
今もかなり睨んだ感が出てたんだと思う。
忍足が慌てたように目を反らしたのがいい証拠だ。
「なぁ」
「…だからさっきから、な、に…っ?!」
振り返ったすぐ目の前に、整ったヤツの顔。
そのあまりの近さに言葉を失う。
それこそ、眼鏡なんてなくても瞳の中まで覗けそうな、距離。
「俺、黒河の眼鏡になりたいわ」
「はっ?…い、意味わかんないだけど…!」
「したら、ずぅっと一緒におれるし」
「…!!」
なんで。
そう問いかける間もなく。
そっと耳元で囁かれた言葉に、鳥肌がたったなんて、悔しいから絶対に言ってやらないけど。
「いちばん近くで、黒河を感じられるやろ?」
私は、アンタから目を反らせなくなった。
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眼鏡は多少、変態ちっくな方がいい。だってあの声はこどもできますよ奥さん(だれ)
(11/02/19)
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