男ゴコロ女知ラズ


「自分、白石と仲ええなァ」


「……は?」


急に後ろから呼ばれたと思ったら、忍足から意味不明なことを言われた。


「…えっと、今の…私に言うたん?」


クラスの片隅。
一番後ろの席を陣取る彼は、何でか不機嫌にこちらを見ている。

なんで私がそんな視線を向けられないといけないのか。
理由が分からず、ただキョトンと見つめ返すばかりだ。


「白石とあんな遠慮なく話すん、自分くらいしかおらんわ」

「まじか。…え?でも白石、色んな人と話すやん。分け隔てないで」

「いーや、黒河がいっちゃん話しとる」


そうだったのか。


「ほな今日から気をつける。教えてくれておおきにな、忍足」


白石は、他校にまでファンがいるような男前だ。
以前一度だけ、図書館で彼と話したあとにファンクラブを名乗る女子に捕まったことがある。

あの時はホントに参った。

それ以来、そんなに頻回話すことはなかったハズなんだけど…。

忍足にそう見えたってことは、やっぱり他の人からもそう見えてるってことだろう。


「…なぁ、」

「ん?」


しかしいつもよりテンションが低いな、と彼の方を見やる。


「白石のこと、好きとちゃうんか?」

「…え?好きやけど??」

「…っ!」


ガタッ、と急に大きな音を立てて忍足が立ち上がるものだから、驚いて見上げた。


「な、なん?」

「あ、あかん!白石はやめとき!!アイツ顔はええけど口癖『エクスタシー』の変態やで!!絶対に彼氏にするんはあか…」



「謙也。…何吹き込んでんねん」


熱弁していた忍足を止めたのは、さっきまで話題になっていた白石本人で。
いつの間にそこに居たのか知らないけれど、不機嫌そうに佇んでいる姿すらカッコイイ。


「…まったく、黒河と話そ思て来てみれば…」

「あ…、あかん!!」

「?!ど、どしたん?…急に大きい声だして…」



「黒河と話しとるんは俺や!!!」


…まぁそうなんだが。

忍足のよく分からない主張に、思わず標準語でツッコミそうになる。


「別に、一緒に話したらええやん」

「嫌や!」

「まじか。…え、何でなん?二人、ケンカ中とか??」


提案を即答で断ってきた彼に疑問を投げ掛けた。
だけど返答どころか、フイとそっぽ向かれてしまう。

代わりに、白石が私の問いに答えてくれた。


「ケンカしとる訳とちゃうで。男ゴコロは意外と複雑、っちゅー話や」


意味はよく解らなかったけど。


「ふ〜ん、難しいんやなぁ…」


よく解らないまま頷いていると、不意に悪戯っぽい視線がこちらを向いていることに気づく。


「なぁ、黒河」

「ん?なに、白石?」


爽やかな笑顔が眩しい。
だけど、何となく油断出来ない雰囲気に、私は少し身構えた。


「謙也のコト好きか?」


「……は?」

「!!」


ガードの意味が無いくらい、唐突な質問に呆気に取られる。
白石は、変わらぬ笑顔のまま続けた。


「あ。友達として、な?」

「な、そういうの先に言うて!ビックリするやん。…もちろん、好きやで…友達としてな」


ホントは異性として、なんだけど。
そんなこと本人の前で言える訳もない。


「!!…っ黒河!」

「え、?」


しばらく黙っていた忍足が、突然私の方に向き直ったから何事かと思えば、真剣な表情でこちらを見つめている。


「覚悟しとけや!」

(えぇぇ…??!)


いきなりそんなことを言われても。
何を覚悟してればいいのか分からない。

混乱する私と妙に気合いの入った忍足を、白石が愉快そうに見つめていたなんて、この時はまだ知る由もなかった。



(ちゅーか、同じ質問されとるんに反応違う時点で分かりやす過ぎやで、黒河)







――――――――――
似非関西弁すませ。
(11/01/16)

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