秋色が深まる。
「わあ、すっごーい……」
感嘆の溜息をゆるゆると吐き、目の前の大木を見上げるかごめ。
御神木の枝に生える葉は、その全てを紅や橙に姿を変えていた。
楓の村に帰ってきた一行は思い思いに久方振りの休息を楽しんでいる。
戦国の方の御神木にはしばらく足を運んでいなかったことに気付いたかごめは、ふらりとこの場所に来た。
そうしたら、思いも寄らぬ季節の贈り物に遭遇したというわけだ。
「ねえ、犬夜叉。いるんでしょ?」
やや大きめの声で、生い茂る葉の隙間から覗く銀色に声を掛ける。
思った通り自分の声にぴくりと銀髪の主は反応した。
「…なんだよ」
無愛想なものの、答えてくれた嬉しさにかごめは頬を綻ばせる。
「枝の上で間近で見るのも綺麗そうね」
「は?」
言っている意味がわからず犬夜叉は怪訝な表情でかごめを見下ろした。
「あたし、そこ行きたい!」
爛々と目を輝かせて告げるかごめ。
その視線は紅葉から犬夜叉に移っていた。
―――これは、つまり。
「……おれに降りて、運べってか?」
かごめの考えを面倒臭そうに口に出す。
「うん、そう」
犬夜叉の予想は見事に的中し、彼女が頷くのを見て盛大に息をついた。
「あのなぁ。こんくらいの高さお前でも登れんだろうが」
今犬夜叉が腰を落ち着けている枝は地面からさして離れていない。
確かにかごめの運動神経ならば行けなくはないのだ。
しかし、自分の体のことは誰よりもわかっている。
かごめは首を横に振り口を尖らせた。
「わかってるわよ。でも、犬夜叉に運んでほしいんだもん」
彼女の突然の発言に犬夜叉はズルリと足を滑らせた。
間一髪の所で木の幹に掴まり落下は防げたもの、その顔は熟れた林檎のように赤い。
「んな…っ」
口をわななかせ満月色の瞳を見開く。
初々しい彼の反応を可愛く思い、かごめは笑みを深めた。
「だめ?」
「だ、だめっていうか…」
「いや?」
「い……いやなわけじゃ…ねえ…」
「じゃ、決まりね」
犬夜叉にとって迷惑では無いことが判明し、かごめは両腕を広げて首を傾げた。
「連れてって」
甘えるような声で可愛らしく言われれば、それはもう―――
「しょ、しょうがねえな…」
普段よりも甘え気味な珍しいかごめの姿に鼓動が早鐘のごとく打ち付けられる。
身軽に木から降り立った犬夜叉は小さなかごめの体を横抱きにし、一跳びで目的地へと連れて行った。
「ありがとう、犬夜叉」
腕の中で満面の笑みを向けてくるかごめを愛おしく思うも、どうしたら良いのかわからずに犬夜叉はぶっきらぼうに言い放つのみ。
「…ちゃんと掴まってろよ、落ちるぞ」
「うん」
しかしそんな彼の態度も慣れたもので、気にする様子もなくかごめは素直に従い緋衣にしっかりと掴まる。
犬夜叉も開いた片足にかごめを乗せ、その体を強く抱き寄せた。
傍らに広がる美しい紅葉に目を奪われつつ、互いに想い人の温もりに酔い痴れて。
冷え冷えとした秋の空気が二人の火照った頬を優しく冷やしてくれた。
Fin
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振りまわされる犬が書きたくて〃
少し初期の犬かごかな。
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