FF6小説 | ナノ


一秒、また一秒

刻々と静かなる部屋に響く音。

瞳を閉じて背もたれに体を預ければ

そこはもう、緑の世界とは隔たれた別空間。

心地よいハープの音色にも聞こえるが、安らかな小鳥の歌い声でも頷ける。

近くに立っている銅像の真似をするように

じっと、ただ耳を傾け動かぬまま。

時は、進み続ける。


止まることを知らずに決まった速度を
はやくもなく
おそくもなく
ただ 刻む

その音に癒されると知ったのはいつの事か。

気がつけば、こうしているのが癖になっていた。

まるで母の子守歌に包まれるような感覚

ゆっくり、首で船をこぎながら
眠りへと誘われる。



「―――ティナ?」



声を掛けられたのは、それから数時間が経った頃だろうか。

薄く瞼を上げると目の前には自分を覗き込む端正な顔。
淡い金の髪とディープブルーの瞳。
以前それは男性に思う事ではないと苦笑されたが、それでも綺麗だと感じずにはいられなかった。

「あ…エドガー、お仕事終わったの?」

公務で忙しい彼を客室で待っている間に眠っていたらしい。
ティナはまだ少し眠気の覚めない目元を擦る。
そんな彼女の隣に深く腰掛け、エドガーは申し訳なさそうに口を開いた。

「ああ、待たせてすまなかった。貴重なレディの時間を奪ってしまったね」
「ううん、そんなことないよ」
「何故?」
「だって…ほら」

あれを聞いていたもの

そう言ってティナが指差した物を見て、エドガーは納得したように頷いた。

「なるほど…ティナは本当にあれが好きだね」
「うん、落ち着くんだもん」

気持ちが凪いでゆく、清らかな気分になる“あれ”とは…


豪華な絵画が描かれてある大きな壁に、一つの大きなアンティーク時計が飾られている。
気品溢れるその時計からは針が時を進む音が確かに聞こえてくる。



 コチ …

  コチ …

   コチ …



「あたたかい、気持ちになるの」

頬を緩めはにかむ彼女が可愛らしくて。
そっとマシュマロのように柔らかな常磐色の髪に指を差し入れ撫でた。
優しく触れられるのがたまらなく嬉しいのか、ティナは目を細め体を寄せてきた。


―――全く、かなわないな


一人 心の中で呟いた。

愛しすぎて、どうしようもなくて。

彼女の行動や表情、言葉のすべてが愛おしい。


細い肩を引き寄せ、開(ひら)けた額に軽い口付けを一つ。

いきなりの行動にティナは目を瞬かせ驚いていた。

そんな顔も可愛い。

むしろ、彼女の何もかもが。

自然に口許が緩んで
ティナに笑い掛ける

「時計の針なんかに、浮気をしないでくれないか」

冗談めいた言葉

彼女は数秒ぽかんと停止した後、愉快げに笑い転げた。

「もう 時計とエドガーを比べる方がおかしいよ」

時が動く

どんなにそのリズムが好きであろうと

彼を想う気持ちの方が遥かに勝っているのに。


ティナの言葉を喜ばしく思ったのか、エドガーは小さな彼女を優しく抱き締めた。

「愛してるよ…ティナ」

不意打ちのような、突然の囁き。
耳元でそんな甘い言葉を吐かれては 全身を赤に染めるなという方が難しいだろう。

「…わ、…私も……だよ」

ぎこちなく、だけれど、はっきりと口にした気持ち。


後は


時計の針が静かに一秒を大切に進む中


二人の影が 重なるだけ。







Fin


*back next#

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