破れた天井から淡い光が差し込み、普段はあまり見ることのできない数多の雫が確認できる。
柔らかな花の香りが湿った空間を覆い雨の日特有の憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれた。
久方振りに訪れた此所は、以前と変らない神秘的な雰囲気を保っていた。
雨に打たれ気持ちよさげに花弁を広げる無数の花の元へ歩を進める。
ブーツが古びた床を蹴る度に軋んだ音が響く。
白と黄が混じった清い花たちを見ると、心が休まった。
建物の中といえど、天井や壁の彼方此方に穴が空いており体は冷たい雨にさらされた。
それでも 永遠にこの場所に留まっていたいと思うほど汚れを知らない場所。
そっと瞼を閉じれば ほら
今でも色褪せない、あの輝き
いつでも自分達を癒してくれた 母のような全てを赦すような微笑み
何かの気配を感じた。
鼻をくすぐる 甘い匂い
耳の奥に響く あの可憐な笑い声
そんな訳は無い
けれど、懐かしいあの華の名が、自然と唇から滑り出した。
「エア…」
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