「ね、ね、スコール」
「……」
「ねえってば〜」
「……」
「あ、ほらあれ見て!」
「……」
「…スコールなんてもう知らない!」
「……」
天気は快晴、気温は快適。
文句なしの穏やかな昼時、スコールは今夜野宿をするのに一番適した場所を探し歩いていた。
普通ならその辺に適当にテントを張れば良いものを、数週間前から少しの凹凸や湿りも我慢できないお嬢様が行動を共にしているため野宿の場所には気を遣わなければいけない。
一度その命令を無視して湿気の多い森にテントを張り一晩過ごさせた所、翌日は体調を崩して戦闘に全く参加できなくなったことがある。
それ以来彼女のために比較的寝心地の良い空間を探すことがスコールの仕事になっていた。
他の仲間たちは食料の調達や戦闘の自主訓練等であまり手が離せない上、状況判断能力が一番優れている彼がこの役目を背負うことになったのは自然の流れだった。
(ったく…レジスタンスをやる覚悟があるなら野宿にも備えとけよな)
思わずため息が出そうになる。
おまけに彼女は他の女子に比べかなり馴れ馴れしい。
セルフィの騒がしさとはまた違う、なぜか自分にだけ執拗にかまってくる態度。
なので最近は必要最低限の会話以外には返事をしないようにしていた。
それでもしぶとく付きまとってきた彼女が今朝、自分に向かって「もう知らない」などと言いそれ以降話しかけてくることはなかった。
(勝手に話しかけてきた上になんでいきなり怒り出すんだよ)
これだから他人と関わるのは嫌なんだ―――
そう思っていたら、目の前に生い茂る長い草がかさかさと揺れだした。
(モンスターか?)
ガンブレードを構え様子を伺う。
すると、
「―――スコール…」
草むらを掻き分けて出て来たのは今自分が心の中で悪態をついた人物であった。
(なんだ、リノアか…)
スコールはふ、と肩の力を抜き武器をしまう。
長い美麗な黒髪を手で払いながらリノアは漆黒の瞳にスコールを映し出した。
(どうせまた騒がしく何か話しかけてくるんだろ…)
彼女のいつもの行動を予想し短くため息を吐いた。
しかし、目の前のリノアはスコールの名を呟いた後は大して興味もなさそうに黙って横を通り過ぎて行った。
(……? ああ、そうか。今朝からこうだもんな)
なにを怒っているのかわからないが、リノアは話しかけてこない。
うるさいのを相手にしなくて済む―――
スコールは胸を撫で下ろして安堵した。
*back next#
1/5
しおりを挟む
←novel top