「スコール、炬燵(こたつ)やろ!」
リノアの突然の提案にスコールは眉を潜め明らかに不思議だという顔をする。
「は?」
「だから、炬燵。スコールの部屋に簡単なやつ置かない?」
一般の炬燵というのはテーブルに備え付けの暖房が周りを温めその空気を逃がさないように布団をかぶし、その中に身を入れるもの。
しかしスコールの部屋にはそんなテーブルはどこにも見当たらないし、そもそも持っていない。
それを承知の上での提案なのだ。
「どうするっていうんだ?」
「ふっふ〜それはね」
ベッドに寝転がっていた体を起こして布団を引っ張りあげる。
「この布団をそこのテーブルにかぶせるだけ!」
スコールは指差されたテーブルを見てますます眉間の皺を深めた。
「こんなのであったまるのか?」
「ちがうちがう。ちゃーんと考えてるもん」
そう言って楽しそうにはにかんだリノアはスコールの部屋に泊まりにくる際に持ってきた荷物の中に手を入れる。
そして出てきたものは…
「じゃーん!ミニ電気ストーブでっす!」
名前の通り小さなそのストーブは四角くコンパクトでテーブルの下にすっぽりと収まった。
「これでストーブの電源入れて布団かぶせちゃえば、おこたの出来上がり」
ど?すごいでしょ、と付け加え首を傾げてスコールを見上げる。
「ね、ね、やっちゃだめ?」
と言われても…
スコールは微笑した。
「そんな準備万端な状態で断れるわけないだろ?」
なにより、リノアの頼みごとだからな。
本音は隠してとりあえず了承するとリノアは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとスコール!」
この笑顔が見られるなら、なんだって許してしまうスコールであった。
厚い布団でテーブルを覆いストーブの電源を付ける。
いそいそと足を布団の中に差し入れ暖まるのを待つリノア。
「ほら、スコールも一緒にあったまろうよ」
椅子に腰掛けているスコールの服の裾を引いて誘う。
「ああ」
本当に楽しそうな様子の彼女につられて炬燵の中に入った。
やんわりと少し冷えた体を包む暖かい空気に安堵の溜め息を吐く。
「ふふ、気持ちいいでしょ?」
テーブルの上に突っ伏してスコールの方を向く。
頬をほんのりと赤らめて心地よいぬくもりに浸るリノアの表情は、柔らかく今にも眠りそうなほど。
「好きなのか、これ?」
スコールは問いながらさらりと彼女の背中に流れる黒髪に手を伸ばし優しく梳く。
その気持ちのよい動作に目を細めるリノア。
「うん。昔よく冬になるとこうやって簡単な炬燵作ってた」
懐かしむようにどこか遠くを見る瞳でスコールを見上げる。
黒曜の大きな目と視線がぶつかりスコールは熱に潤んだ瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。
静かに隣に座るリノアのしなやかな柳腰に手を回し引き寄せる。
「俺は…炬燵なんかのぬくもりより、こっちの方が良いな」
思いがけない言葉にリノアは目を丸くして驚く。
「え、スコ…」
問い掛けようとした、その言の葉は
雪のように降ってきた優婉な唇に遮られた。
暖かい布団に包まれるのも良いけれど。
包まれるより、包みたい
温かい掛け替えのないこの人を。
Fin
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