夕暮れになり、辺りは静けさを帯び出した。
店を閉めるところも多々あり、走り回っていた子供たちはそれぞれの家へと帰ってゆく。
スコールとリノアは互いに手を握りながら高台から沈んでいく夕日を眺めていた。
「綺麗…」
彼女が小さく呟くと、スコールも「ああ」と頷いた。
橙色の空に消えてゆく茜色の太陽。
遠くには紺色の雲がぼんやりと浮かんでいる。
「あーあ、もう夜か……あっという間だね」
残念そうに言い、スコールの手をぎゅっと握る。
「…もっと、一緒にいたいなぁ」
彼女の切なげな言葉にスコールは胸が締め付けられた。
きっと明日からはまた任務続きの生活に戻るだろう。
こんなに長く一緒にいられる日は滅多にない。
リノアに辛い思いをさせてしまう日々がまた……
「……俺は、リノアになにをしてやれる?」
スコールは手を握る力を弱めた。
「え…?」
「俺は……いつもリノアの近くにいられるわけじゃない。明日からはまた…離れてしまう」
スコールは澄んだ輝きを持つ蒼の瞳をリノアに向ける。
「こんな俺が、これからもリノアの傍にいても良いのか……?」
―― 途端 ――
スコールの唇に柔らかく心地よいものが触れる。
甘く、いつもの香りよい口付け。
リノアは背伸びをして彼の頭を両手で引き寄せ、唇を重ねていた。
スコールは驚きのあまり開いたままだった眼をゆっくりと閉じ、片方の手をリノアの頭に、もう片方を細い腰に回した。
やがて永遠を誓うような口付けはどちらともなく唇を離して終わりを迎えた。
リノアはスコールを強く抱きしめ、まだ熱い口を開く。
「――スコール。わたし、スコールがいなくちゃだめなんだよ?」
暖かくたくましい胸板に埋めていた顔を上げ、真っ直ぐに目を合わせる。
「わたしは…魔女だけど…もう、普通の人間じゃなくなっちゃったけど……スコールと、ずっと…ずっと一緒にいたい。スコールがいない世界なんて考えられないよ」
「…俺だって、同じだ」
リノアのいない世界。
―――彼女と出会う前の自分。
他人を怖がって、避け続け、冷静なふりをしているだけだったあの頃。
楽しいことや、嬉しいことなど知らなかった、幼い日々。
「リノアと出会ってから…楽しいことや、嬉しいこと…たくさん知ったんだ。これからもずっとリノアといたい………だけど…」
自分は、SeeD。
「任務で怪我を負って帰ってくることもある。危険な仕事ばかりを繰り返している。そんな俺に、リノアは……ずっと付いてきてくれるのか?」
毎日さみしい想いをさせて、無事で帰ってくる保証もない自分のことをどう思っているのだろう。
一人きりのベッドの中で、なにを感じているのだろう。
「俺はリノアに悲しい思いをさせたくない…これ以上、あの時のような思いを……」
戦いの中。
リノアが魔女になって感じた恐怖。
自分はどうなっていくのか、周りの仲間は離れて行ってしまうのか。
かなしくて
さみしくて
くるしくて
せつなくて
そんな思いを、これ以上―――
「リノアにはいつも…いつまでも笑顔でいてほしい。だから…」
「……だから…なに?」
リノアは曇った声でスコールの言葉に問いかける。
「……俺は…リノアの傍にいる資格なんて……本当にあるのか?」
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