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「…ん?」
スコールは立ち止まり目の前の岩肌を見上げる。
太い木々から伸びる蔓(つる)が幾本も絡まりあい、隙間が見えない中、根元に小さな塊が認められた。
「どうしたのスコール?」
じっと佇んだまま動かないスコールを不思議に思ったリノアが話しかける。
先程の件を少々引きずりながらもスコールは冷静に答えた。
「…根元に、石…みたいなのがある」
「え、うそ!」
どれどれ、とスコールが示した場所を見上げた。
見れば確かにそこには小さな小石が蔓に囲まれて在った。
「本当だー!よっし、んじゃ登るぞ〜」
ガッツポーズをしてリノアが手前にあった蔓に手をかけた。
「あんたが行くのか?」
思わず聞いたスコールにリノアは当然のように頷いた。
「え?うん、だってスコールあまり乗り気じゃないでしょ?」
「(…確かにそうだけど…)これをあんたが?いけるのか?」
ほぼ垂直の岩壁の頂点にある石。
そんな場所に果たして目の前の少女が辿り着けるというのか。
「だ〜いじょうぶ!わたしこれでも木登り得意なのっ」
言いながら両足を壁につけ、するすると登って行く。
しかし上に行けば行くほど足場がなくなり、ついには捕まる蔓も見当たらなくなり八方塞がり状態になってしまった。
「ス、スコール〜…」
情けない声を出して助けを求めるリノアにスコールは額に手をやり首を振った。
「(ほら見ろ)…どうするんだ?」
「……どうしよう」
まさか登れない時のことなど頭に入れていなかったリノアはその場から動けぬまま硬直していた。
スコールは盛大に息を吐いて両腕を広げてみせた。
「ほら、早くしろ」
「…へ?」
スコールの取った行動の意味が分からずリノアは首をひねる。
鈍感な彼女の様子にスコールは仕方が無いといった風に言った。
「動けないなら飛び下りれば良いだけだろ」
地面まではけっこうな距離がある。
いくらリノアでもこの高さを普通に飛び下りれば命に関わるだろう。
リノアはようやくスコールの意図がわかったと同時に、顔を真っ赤に染めた。
「え"、え!?スコールそれって…」
「良いから早くしろ」
有無を言わせない態度のスコールにリノアは恥ずかしそうに身をよじりつつ、彼を見下ろす。
「…わたし重いよ?」
「良いから」
「腕痛くなるよ?」
「このくらいで痛めない」
「衝撃でスコールも一緒に転んじゃうかもよ?」
「転ばない」
リノアの煮え切らない態度に痺れをきらしたスコールはさらに腕を広げ言い切った。
「ちゃんと受け止める」
スコールの真剣な瞳にぶつかり、リノアはますます体温が上がるのを感じた。
「……うん…!」
数秒置き、リノアは意を決して両腕を蔓から離した。
―――ドサッ
軽い衝撃音と共にスコールはリノアの体を見事に受け止めた。
(―――こいつ、ちゃんと食ってるのか?)
瞬間思わずいらぬ心配をしてしまうほど、腕の中にいる彼女は…羽が生えているかのように軽かった。
不安げに恐る恐る瞼を上げた途端、リノアは花咲くように微笑みかけた。
「ありがとう、スコール」
ごめんね と付け足して彼の腕から素早く降りた。
早まる胸の鼓動を押さえながら―――。
(うわーうわー、やっぱり男の子なんだなあスコール)
初めてのお姫様抱っこに感動を覚えつつ、リノアはスコールを照れくさそうに見上げた。
「? 俺の顔になにか付いてるのか」
「え、や、違う違う!」
慌てて両手を振ってみせ視線をそらす。
(…かっこいいなあ、もう)
スコールの全てが輝いて見えてしまう。
恋は盲目だなんてよく言うけれど、盲目なんかじゃない。
彼は、本当に―――
「かっこいいなあ」
もう一度、小さく口に出してみる。
それがスコールに聞こえたかどうかは…
恥ずかしすぎて、確認できそうもなかった。
Fin
―――――――
もしリノアちゃんが先に登ってたらの話。
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