03




「名前、まだ不安か?」

今までの勢いは何処へやら。
目元を擦る俺を窺うように、覗き見る。
「不安じゃねぇよ」
なんて言ったものの、どうやら不安や痛み、ましてや笑い涙でもないこの涙に一番戸惑っているのは俺なのかもしれない。
「じゃぁ、嬉し涙か?」
にやっと意地の悪い様な、それともただ無邪気なだけなのか判別に困る笑みを小平太が浮かべた。
「私とこの先も来世も一緒だって分かって、嬉し泣きしたんだろ?」
屈託の無い顔で、なんて強引で俺様な事を言いやがるんだこいつは。

「約束するぞ。私は必ずお前の処に帰る。もし別つ事があったとしても見付け出して、私はまた名前と出逢う」
絶対にだ。と、力強く一寸の迷いも見せずに断言した。
「なんだそれ、求婚みたいだな」
そう照れ隠しでおどけたのに「おぉ!求婚か!良い事言うな!」なんて、がばっ!と抱きつき、ぎゅぅぅぅと抱き潰さんばかりに抱きしめてきた。
茶化したつもりが、こうも本気で納得されてしまうと、やっぱり敵わねぇなぁと苦笑が零れる。

「涙、止まったな」
ぺろり、と涙の跡を舌で掬って小平太が笑う。

あぁ、本当だ。
さっきまで不安で仕方なかったのに、今は疑う事無くこいつが俺の元へ帰ってくると信じてやまない。
そして当たり前のように永遠に共に居る事を誓う小平太の慕情が、堪らなく嬉しかった。
じわりと、それこそ嬉し涙が滲みそうになるよりも前に
「じゃぁ名前も誓ってくれ。私を選ぶと」
と、否を言わせない堂々たる振る舞いでにっかりと笑った。
「俺に拒否権は無いのかよ」
そう文句を零しつつも、くつくつと笑う。
「…俺も誓うよ、小平太」
お前と共に居ると。と、最後まで言葉にする前に、噛み付く様な小平太の口付けが落とされた。



桜の下で永遠を誓う…

(―――行って来い。そして必ず俺の元に帰ってこい、小平太)


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