01



唄は空気にとけ込んだ
忍術学園の朝は早い。
だが、今日は休日とあって普段よりも人の動いている気配は少ない。
それでも俺は普段と変わらず支度を整え、朝の鍛錬をすべく部屋を出た。

庭へ下りると、まだ明けの六つ半だというのに太陽が顔を覗かせ始めていた。
「今日は暑くなりそうだ」
燦々と降り注ぐ事になりそうな灼熱の陽を想像して、目を眇める。
日に日に暑さが増し、蝉も鳴き始めた庭先から門へと向かうと、水桶と柄杓を手にした男の姿が見えた。
その背は見知った奴のもので、事務員でも無ぇくせにせっせと打ち水をしていた。

「おい、何やってんだお前」
溜息を吐きながら声を掛けると
「お〜、文ちゃんおはよう。相変わらず早いのな。というか、寝た?」
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべてからかいを返してきた。
「煩せぇ。あと文ちゃん言うなバカタレ」
べしっとそいつの頭を小突く。
「あいたッ!なんだよ〜、心配してんだぜ?」
そいつ、六年は組の日向陽は軽く頭を擦ると、くっくっくっと笑いながら打ち水を再開する。

日なたと日陰の温度差の少ない朝夕に打ち水をしておくと、昼間や夜間が過ごしやすくなる。
陽はそういう誰も目に留めないような事を、何とはなしにやってしまえる性根の男だった。

「てめぇこそ早ぇじゃねぇか。今朝帰って来たのか?」
こいつは家業の関係で、度々こういう事がある。
就業後実家に戻り、家業を手伝い就寝頃に戻ってきたり、翌日が休みの日はそのまま泊って朝又は夕刻頃戻って来たりという事をずっと繰り返してきた。
しかしここ暫くは親父さんの容体が芳しく無いようで、家業の過酷さが窺えた。

「ん〜、まぁな。で、門潜るついでだから打ち水してた」
そう言ってにかっと笑う姿は、その目の下の隈を感じさせない程清々しいものだった。
「そんな事よりも、とっとと部屋に戻って寝ろバカタレ」
「そう言うなら文次郎もちゃんと寝ろよ。朝からギンギンしなくたって、どうせ一日中鍛錬馬鹿してんだろ?だったらしっかり寝て朝飯ちゃんと食ってからやれよ」
捲し立てるように反論して寄こすこいつに、何か言い返そうと口を開くも言葉が出ず、喉に突っかかった。

一言を二言三言に増やして返す減らず口に、ぐうの音も出せずに結果最後まで聞いてやる状態になった。
何故だ、畜生。
「ちっ、」
自分でも理解し難い苛立ちを舌打ちに乗せると
「まぁ怒るなって文ちゃん、朝飯食ってからだって遅くはないだろ?今日は獲れたてのとうもろこしを貰って来たんだ。甘くて美味いぞ。今が旬だからな」
諭すように微笑んだ陽からは、ふわりと土の匂いがした。

―――ドッ

と、また得体の知れない拍動が一つ、体内で響く。

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