04




その五年が甲斐甲斐しく留三郎の髪についた雨粒を拭う。
そして手が止まったかと思うと、そのまま留三郎が彼を抱きすくめた。

完璧なまでの女性の所作。
あんな事が出来る五年は二人。
しかし鉢屋の場合、甲斐甲斐しく拭ったりしないし、抱きすくめさせもしない。
というか、まず留三郎が抱き締めようだなんて思わないはず。
となれば、もう一人の方…。

「…私達はこのまま急ごう。どうせ着物も汚れてしまっているしな」
ふいっと二人から視線を外した利吉さんが、足早にその場から離れる。
その横顔はどこか、焦れた様な、傷ついたような表情をしていた。
「利吉さん、」
思わず呼び掛ける。
「何だ?」
心なしか、目元が少し弱々しく見えた。

利吉さんでも、こういう顔をするんだ。
そういう想いを、しているんだ。

俺はきゅぅっと、胸の奥を見えない手で握られたような気がした。

「気休めですけど、この風呂敷被って行きましょうよ」
行きに品物が包んであった風呂敷を広げ、二人で被る。
ほんの少しは雨を凌げるだろう。
バサリ、と俺に風呂敷を被せられながら「大の男が二人、被り物して肩寄せ合ってなんて…滑稽だな」と、
利吉さんが吹き出した。
「今は女装してんですから、年頃の乙女二人きゃっきゃ肩寄せ合って小走っているのは、可愛いく映りますよ」
へらりと笑って、肩を寄せる。
「…たまには悪くないか、こういうのも」
寄せた俺の肩に利吉さんが手を添え、再び先を急ぎ始める。
「あははっ、何か面白いですね、こういうのも」
「馬鹿もやってみるもんだな」
「ところで利吉さん、口調戻ってますよ」
「うるさい、陽もだろう。お互い様だ」
そう言って首を傾けた利吉さんの側頭部と俺の側頭部がコツン、とぶつかる。

そんなやり取りが、ちょっとだけ嬉しかった。
心が少し、温かくなった。



どうしようもないって、これは
(―――きっと今、俺たち同じ表情してますよ)





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