03



それがとても利吉さんには似合っていて文句のつけ所は無いけど、どうして今日に限ってそれかと問いたい。
目立つ。物凄く目立つ。雑木林の中に入ろうとも、逆に緑の中では蜜柑色と赤が浮き立ち、追手に見つかるのは早かった。

「これか?…あぁ、わざとだ」
しれっと利吉さんが答える。
「何で!!」
思わず敬語を忘れてしまった。
前から思ってたけど、利吉さんてたまに、某作法委員会委員長を彷彿とさせる時があるよね。
あれ?ここまで言ったら“某”の意味無くね?
まっ、いいか。
ブツブツと脳内会議をする俺を余所に「そりゃぁ、より実習内容を難しくする為だからだよ。誰も彼もが質素な着物に着替えてくれるわけではない。お召し物の品質を下げたくないとごねる姫もいるって事。こんなのは派手には入らないよ。もっと強い色味の物や、重ね着故の重さと厚みを持った姫を守り通さなければならない事だってあるんだからな」と、肩を竦め、おどけたように言った。
成る程、経験値の違いに素直に感嘆する。

年齢の為か、経験知の違いから来る余裕と大人っぽさからか、俺は利吉さんを兄のように慕っていた。
俺には弟一人だけだから、実際の兄という者はどんな感じなのかは知らないけれど、兄だったら良いなという想いを抱いた事はある。
まっ、成績ドベの俺と、売れっ子忍者と謳われる利吉さんが兄弟だったらなんて迷惑な話だろうけど。

あまりの実力の差が可笑しくて、思わず笑いが込み上げた。
「何笑っているんだ?…さっ、小雨が降り始めた。急ごう」
くくっと笑い出した俺の後頭部をぽんと叩き、先を促す。
「何処かで雨宿りしますか?」
「そうだな…っ、」
先を行っていた利吉さんの足が不意に止まる。
「どうしました?」
不思議に思ってその背越しに視線の先を追うと、そこには同じく帰路の途中であろう留三郎と、女装をした五年生の後姿があった。


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