02




「わわっ、」
倒されたと思う間もなく、ドサッと倒れ込む音と草のひんやりした感触が一瞬頬を掠める。
一瞬、と言うのは、草の感触とは別の温かいものに接し面を庇われているとすぐに思い至ったからだ。
温かい、人の体温。
それが先輩の腕だと気が付くまでの間に、数回瞬きをする。

どうやら僕を撫でる手をそのまま後頭部に回し、先輩に引き寄せられるようにして倒されたらしい。
結果、先輩に腕枕されている形で落ち着いている。

ふわり、と草の茂りが持つ独特の緑の匂いと、先輩の土と微かな花の香りが鼻を擽った。

「び…びっくりしました〜」
やっと状況を呑み込めた僕は、ほっと胸を撫で下ろす。
「ごめん、ごめん。撫でられてる四郎兵衛があんまりにも可愛くってさ」
そう先輩が悪びれもなく笑った。
「なぁ、体育委員の皆が来るまで昼寝していようぜ。ここ気持ち良いのな」
先輩は僕に腕枕をしたまま、自由の利く身体部分を「ん〜〜〜」と唸って伸ばす。
「あぁ〜ねっみぃ…」
段々と語尾が尻蕾んだかと思えば、とろんと瞳を揺らし、うとうととし出した。
今の先輩は、とても無防備。

「えいっ!」
「うおぁ!」

先輩が素っ頓狂な声を上げた。
僕は仕返しとばかりに、さっき先輩がしてくれたように先輩の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「何だよ、四郎兵衛ぇ」
文句を言いつつも穏やかに目元を緩ませた先輩は、とても可愛らしく微笑んだ。
「ふふふっ、先輩があんまりにも可愛かったからですよ〜」
得意気に僕がそう言って除けると、一瞬きょとんとした先輩が「お莫迦」と照れくさそうに、くしゃりと笑った。





あなたの笑顔はいつも突然で

(―――僕は呼吸を忘れてしまう)





[ 13/15 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]