05




「私は仙ちゃんみたいに賢くないから上手く言えないけど、名前が遅れた事に単に怒っているんじゃなくて、私の為にめかしこんでくれたものを私は私の手で崩してしまった事、それを名前が悲しんでいる事は分かった。そういう事で当たっているか?」
自分の解釈に自信が無いようで、確認するように額を擦り合わせられる。
「…あぁ、そうだ。当たっているよ」
合わせられた額だけでは足りず、自ずと鼻先も擦り合わせる。
小平太の汗と土の匂いが鼻腔を擽った。
「残念だったな。お前は、今日一番心をめかしこんだ俺を見逃したんだ」
最後の皮肉を、甘さの漂う声音で揶揄する。

「本当にすまなかった、次からは気を付ける。だから機嫌を直してくれ。私は名前の悲しい顔を見ていると堪らなくなる」
口をへの字に曲げ、これまた珍しく気弱な姿を見せた。
昨日から珍しい事だらけだな、と思わず目を瞠った。
「おう。次は無いからな」
なんて言いつつも、きっと次も許してしまうんだろう。
「詫びに、今日はうんと名前を甘やかすぞ!何でも言ってくれ!」
お許しが出た途端、溢れんばかりの笑顔を湛えて、俺を抱き締めていた腰の腕を更に下げたかと思うと、そのままひょいと抱き上げた。
「うっわぁぁぁ!ちょっ、降ろせ!」
恥ずかしくてもがく俺を余所に、いたく嬉しそうな小平太が「甘味でも食うか!」と、意気揚々と先程待ち合わせていた茶屋の暖簾を潜った。




こころのおめかし

(―――好いた相手にゃ、めかしもするさ)





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