03



どうして!
何で!
何故!

どれだけ、
どれ程、

…これ程、
留三郎が、好きだよ。
こんな時にでさえお前を想ってしまう程に。

「ごめん、ごめんな絹代。その時はうんと大事にするよ。お前の事、女の子の中で一等大切だから。だけど、今は無理。ごめん」
最低な自分の答えに吐き気がした。
「今はまだ、どうしても留三郎が好きなんだ。」
ひゅっと息を呑む音がした。
聞こえない振りをして、俺は一度瞑目する。
「けじめ、つけてくるから。ちゃんと、終わりにしてくるから」
最後の方は弱々しく力を失い、ぽとりと言の葉が床に転がった気がした。

「…本気、だったんだ」
躊躇うように向けられる声。
「陽は、本気で同級の子が好きだったんだ?」
にわかに信じられないという瞳で俺を睥睨した。
それもそうだろう、夫となるかもしれない奴が同級の、それも同性を本気で好きなのだと聞けば。
寧ろあんな言い方をし、あまつさえこんな失態を晒した俺を殴らないでいる絹代の寛大さに敬服さえ覚えた。

「…うん」
力無く俺は頷く。
申し開きする事なんて何も無い。
どう罵られようと蔑まれようとも、それで少しでも償えると言うのならば喜んで受けようと思う。
これもただの自己満足にしか過ぎ無いのだが…。

「馬鹿じゃないの…」
ぎゅっと両の掌を握って、絹代が絞り出すような声で発する。
「馬鹿よ、あんた」
「俺も、そう思う」
「本当に馬鹿…」
それだけを言うと、踵を返した絹代が走り去って行った。
ぱたぱたと遠ざかる足音と、涙に濡れて掠れていた声が、いつまでも耳に残って動けなかった。
まるで地に根が生えたように、耳の奥で木霊する声。

―――馬鹿じゃないの。

あぁ。俺も心底そう思うよ。
だけど。



どうしてこの愛しさは消えてくれないのだろう

(―――留三郎、お前に会いたい…)





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