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「元気な振りも、止めて頂けますか?調子が狂います」

首元のジュンコを愛おしそうに撫でながら、どうでも良い事の様に伊賀崎が続ける。
「ここ数日、更に多忙の様ですね。竹谷先輩が心配しておられましたよ。僕たち下級生たちにでも分かる程お疲れな様子…何をそんなに根を詰めておいでなのですか?」
淡々と、そこには言葉程心配の色は見えないが、見えないだけであって、十分に想いが詰まっている事を知っている日向は思わずぐっとする。

伊賀崎は人にあまり興味を持たず、行動も逸脱していると思われがちだ。
ただ生き物が好きだという事、そして逸脱していると見られているほんの一部分だけが拾い上げられ噂され、彼を理解している人物以外、つまり大半からの評価は良いものとは言えなかった。
彼自身もその評価に不満所か興味すらなく、誤解を解く事もままならない。
その上表情にも表れにくく、言葉も優しくは無い為、感情の誤解もしょっちゅうある。
そんな彼が自分に歩み寄り、隠していたつもりの空元気や疲労を心配してくれているのかと思うと、親の気持ちに似た感動を覚えた。

「あぁ〜俺もうその一言で元気になれた〜〜〜孫ぉぉぉ」
バッと両腕を広げて伊賀崎を抱き締めようとしたら、サッと避けられた。
「ぎゅうっとくらいさせろよ〜」
肩透かしをくらった日向が、ばたりとそのまま倒れ込む。
「心配掛けて悪かったな。ちっと今家業がごたついててな。それが落ち着けば委員会にも顔出すからな」
苦笑を浮かべて、倒れ込んだままそう伝える。
伊賀崎の首元から降りてきたジュンコが、日向の鼻先まで寄りシャァと啼く。
ちろちろと見せる細い舌先の動きが愛らしく「あははっ、可愛いなぁ」と、日向が笑った。
「やっとちゃんと笑いましたか。委員会の皆でお団子をご馳走になった時以来、そう多く先輩を見掛けたわけではありませんが、それでも何処か心此処に在らずな雰囲気だったので」
手を差し伸べ、シュルシュルと再び首元まで登るジュンコに優しい微笑みを浮かべた伊賀崎が、やはりどうでも良い事の様に淡々と告げた。

「…俺、本当感動だわ。いや、でも後輩達に心配させるなんて六年生としては失格だよな!もう大丈夫だから」
よっこらしょっと、掛け声をして起き上がった日向に、伊賀崎が視線を馳せる。
じっと見つめるその瞳からは何の感情も読み取る事の出来無い、澄みだけが在った。
思わずその瞳に絡めとられる。

―――あぁ、本当にお前とジュンコは似ているなぁ

と、日向はぼんやりと思う。



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