01



呆れるほど、鮮やかに
「伊作は良いよなぁ」
此処は留三郎と伊作の自室。
遊びに来ていた俺は、薬草を擂っている伊作の様子をぼんやりと眺めて零す。
「何さ、藪から棒に」
伊作は手を休める事無く、くすくすと笑みを浮かべて答えた。

「だって伊作は留三郎と同室で寝起きも一緒だし、何かと一緒に居ていざと言う時助けてくれて、道具直してくれたり面倒見てくれたり、なにこれ羨ましい」
ぶつぶつと文句のように呟いて、怨みがましく伊作を見る。
「何か、僕が相当駄目な感じに聞こえるんだけど…」
伊作が眉を八の字に下げて頬を掻く。
「違う!伊作が問題なんじゃなくて、いちいち留三郎が用意周到で格好良いのが問題なんだ!」
そう俺が力説すると「それは陽の贔屓目だと思うよ」と伊作に笑われた。

「寝起きって所以外は陽だって同じ対応だと思うけど」
伊作が思考を巡らすように天井を仰ぎ見る。
「そうだけどさ。そうなんだけど!!…何か伊作と一緒の時の方が、気心知れているって雰囲気で羨ましい」
「それは思い過ごしだよ。まぁ、僕が蛸壺に落ちたり何だりで留さんに迷惑掛けちゃっているから、そういう意味では身内意識というか…手が焼けるなぁって思われているのかもしれないけど」
情けないよね、と伊作が苦笑を浮かべた。
「そういう意味では、陽は手が掛らないし、対等というか、甘えている部分もあるのかもね。自分がしっかりしなくちゃって背負い込む所あるじゃない、留さん。でも陽相手だと我儘っぽくなったり、文次郎とは別の遠慮の無さがあって、僕は良いなぁと思うよ」
にっこりと微笑む伊作が俺を見遣る。

「…伊作は大人だな〜。俺、勝手に伊作にやきもち妬いて愚痴ったのに」
あぁ〜あ、と溜息とも間の抜けた声ともつかない言葉を発してその場に寝転ぶ。
「ふふふっ、陽の良い所は、そうやって自分の行動を客観視出来る事だよね」
「そうかぁ?事留三郎になると必死過ぎて全く無理だけどな!」
はっはっはっ、と大口を開けて笑うと「そう言う所が留さんを我儘にさせてあげられているんだと思うよ」
と、伊作が優しく微笑んだ。
「どういう意味だ?…駄目だ、やっぱり妬ける。伊作は何でそんなに留三郎の事が分かるんだよぉぉぉ!」
お〜いおいおい、と泣き真似をして畳に突っ伏すと
「好きな子に関してはどうして何も分からなくなるんだろうね。留さんの事、陽より分かっているつもりは無いけど、そう陽が感じちゃうのは分かるな。僕も好きな子に関しては、あの子の同級が羨ましくて仕方ないもの」
少し遠くを見つめるように、伊作がきゅうっと瞳を細めた。
「えっ、伊作、好きな子いるの?」
不意に出た話題。それを聞き逃す筈も無く喰い付いた。
「うん、居るよ。だから陽が留さんと僕の間柄を妬く事なんて少しも無いんだ」
ふわりと笑った伊作が、ゆるりと俺の頭を優しく撫でた。
心地が良くて思わず目を瞑る。





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