03




「…どこが、いいんだろうな」

留三郎が、誰にともなく小さく呟く。
その言葉に俺は、びくっと肩を震わせた。
“男なんかの”と言われているようで身の竦む思いがしたからだ。
思わずぎゅうっと身体を縮めた俺の肩を、留三郎が解すように緩く撫で始める。
「俺の、何が良いんだろうな」
それは、答えを求めるような呟きではなく、ただ、ほろりと零れただけの、声。

きっと理解し難い事だろうに。
それなのに、嫌悪せずに解ろうと悩んでくれる。
例えばそれが、友の範囲であったとしても。
そしてその間も手は優しい力で肩を、それから段々と頭を、幼子をあやすように撫でつけた。

「…そういう所も全部、だよ」
問われていないのを承知で、俺も小さく小さく零す。

それからは、どちらも何も言わずに緩やかな午後をまどろみながら過ごした。
障子戸の隙間から差す柔らかい陽の煌めき。
遠くで聞こえる一年生の笑い声。
頭を撫でる緩やかな体温。
安寧を思わせる留三郎の掌。
ずっと、ずっとこうしていたいと、思った。



髪に触れて、離れて触れて、ふれて、あいして

(―――疲れが癒えていく…)




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