01



瞳の奥に疼く、哀感の色
「留三郎の何処がそんなに良いのか、私にはさっぱり分からん!」
がはははっと大口を開けてお猪口に酒を満たす小平太が笑った。

今は小平太と長次の部屋であるこの長屋で、久々に六年全員が集い酒を交わしていた。
俺が久々に早い時刻の内に学園に戻って来れた事と明日が休みという事が重なって、小平太が「呑もう!」と提案したからだ。

「失礼だな小平太!お前こそ長次にべったりで言えた台詞か!いや、長次がすげぇ良い奴なのは重々承知だが!」
そう俺が反論するものの
「あぁ、私と長次は仲良しだぞ!」
と、自身の右半身を長次の左半身に預けた小平太が悪びれなく、にんまりと笑んだ。
「話が噛み合わねぇ!この酔っ払い!」
この暴君の話の噛み合わなさっぷりは今に始まった事ではないが、がしがしと俺は頭を掻いた。
「いいか小平太、何処がって話じゃねぇの。全部だよ、全部」
「益々分からんな!」
説明するも、全く意に介さずに笑い飛ばされた。
「莫迦―――ッ!!」
紛糾した思いをその一言に込めて、俺は両手で自身の顔を覆い、さめざめと泣く素振りをする。

「・・・ねぇ、本人が目の前に居ること忘れていない?」
伊作が苦笑を浮かべて俺たちを宥める。
はたとして話題の当事者である留三郎を窺い見ると、何とも言えず口元を歪め、眉間に深い皺を寄せている姿が視界に入った。
「色恋だの何だのと馬鹿馬鹿しい。三禁を忘れおったのかバカタレ」
文次郎が酒を煽って俺たちを一瞥する。
「くそ文次、てめぇだってその三禁破って呑んでんじゃねぇか」
忌々しげに留三郎が牙を剥く。
「ぐっ、そういうてめぇもその阿呆面どうにかしろ」
負けじと文次郎は留三郎を忌々しげに睨む。
「んだと文次郎!」
いつもの如く食って掛ろうとする留三郎を横目に、仙蔵がくくっと喉の奥で笑った。
「文次郎の言う事も一理あるな。留三郎、大層見物な顔をしているぞ」
口元に綺麗な弧を描いた仙蔵が、くいっと杯を傾けて酒を煽る。

陶器の様に滑らかな仙蔵の肌は酒気の熱を感じさせること無く白い。
ともすれば、冷やりとしそうな程に透き通っていた。
けれど可笑しそうに微かに細められた瞳には、仄かに漂う色香があった。

「仙ちゃんに惚れるって言うのなら分かるけどな!私、仙ちゃんなら抱ける気がする!」
と言う小平太。
その暴言に「・・・新作の焙烙火矢の威力、試してみるか?」
と、冷たい視線で小平太を流し見る仙蔵の声と
「俺は留を抱きたいの!」
と、思わず荒げた俺の声が重なった。

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