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「留、用具委員会も茶か?」
俺が答えると「あぁ、道具の買出し帰りに折角だからな。しんべヱが団子団子ってきかねぇし」と愚痴を零すも、どこか嬉しそうな留が顔を綻ばせてしんべヱの頭を撫でた。
「一人一つずつな」
留が用具委員会の後輩達に伝えると「はーい」と、変声期前の可愛らしい高い声が返ってくる。
「隣、良いか?」
そう問うのと同時に留が俺の隣の長椅子に座る。他の用具の面々も向かいの長椅子に腰を掛け、そわそわとお品書きを眺め始めた。

「何だかんだ言って留は後輩に甘いし、なんてったって子ども好きだよな」
あはははっと笑うと「日向先輩だって子ども好きですよね。見ているとつくづく思います」と竹谷が重ねて笑った。

俺と留三郎は“子ども好き”という所に何となく気恥ずかしさを感じ、見合ってしまった。
「俺ら、そう見られていたんだ?」
ぽかんとする俺と「・・・だな。」と、どこか居心地が悪そうに眉間に皺を寄せた留三郎が頷く。
「何かこっぱずかしい〜〜〜」
と、云い得ぬ照れで顔を覆う俺と「注文決まったか?」と、素知らぬ振りして後輩に話を振る留三郎。

お店の人に注文を済ませ、後輩の話を聞いたり頭を撫でてやる留を見ていると、本当に後輩を慈しんでいるのが分かる。
その頭を撫でる温かな掌は、いずれ留三郎が娶る嫁とその子どもに向けられるモノだという事も。

それを思うと、俺の胸はぎしりと軋んだ。

留三郎は子どもが好きだ。俺だって好きだ。
しかし留三郎と俺とでは、どう逆立ちしても授かることなど出来ない。
その事実が、堪らなく俺の胸襟を抉る。
そもそも留が俺の事をどう思っているかも分からないのに考える事ではないんだが。
だけど、好いた相手との将来を夢見るのは誰しも一度はあるだろう?
馬鹿な奴って思われるかもしれないけど、夢想する程、俺は留三郎が好きだ。
あの慈しみを持って触れる手が、俺の気持ちを知っていても嫌悪を示すことなく触れてくれる優しさも、忍として強くあろうとする心も、鍛錬を惜しまない努力家な所も、文句を言いつつ小平太や文次郎が破壊する場所を丁寧に直す真面目さも。全部全部。

けれど、留三郎は男色ではない。
一応言っておくが、俺も男色ってわけではない。
ちゃんと女の子にも、実習で必要な時はって話だけど正常な反応は示すし、愛おしい存在だとも思う。だけど、心が占めるのは留三郎だった。女の子とそういう事になっている最中でも「留はどういう風に抱くのだろうか」とか「あの優しい指先は、今別の女性に向けられているのか」と、そんな事ばかり。
下世話で失礼にも程があるけど、でもそれが“誰かを慕う”からこその感情だと知った。

四年生の実習を得て気付いた初恋。それまでは俺自身憧れから来ているもんだと思っていた。
俺と背丈が変わらないのに、俺より体術でも忍術でも優れ、筋肉も程よく付き、後輩に慕われ、繊細な修繕もこなせる事への憧憬。
しかし、いつしか身体の奥でそれらとは違う感情が蠢いていると知ると、唐突に自分が恐くなった。
燻るそれが、どう考えても幸いな途には繋がらない事実に。
それでも、口にせずにはいられないのだ。

ごめんな、留三郎。拒否しないお前に甘えて好いていると言い続ける事。
ごめんなさい、父上母上、今の俺には自分が家庭を持つ事が想像できない。
叶うならば、傍には留が居て欲しい。
だけどそんな事、口にするわけにはいかないから閉口するばかりで、戸惑わせてごめんなさい。
弟にも、家業や俺が叶えられそうにない家庭を押し付けて、ごめん。

・・・どうしても、俺の胸を重くするこの事実。
だけど、どうにも出来ないのもまた事実。

ごめんな、皆。



なんて不毛な、それでも恋

(―――それでも、好きだよ)





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