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なんて不毛な、それでも恋
今日は久々に時間が出来た。
いつもは就業後実家に戻り家業の農業を手伝う為、忍術学園には授業と寝に帰ってきているようなものだった。
入学したての頃はもう少し学園に居る時間があったのだが、近年の農業の発展に伴い多忙を極め、なかなか学園で過ごす時間が取れなくなってきている。
どっちが本業なの?忍者のいろはを学びに来ているくせに、それを二の次にして家業ばっかって本末転倒じゃね?って思うだろ。
あははっ、俺もそう思う。
しかし実を言うと本来の目的は闇に忍ぶ者より、どっちかと言うとそれを通して知る情勢や技術、家業に活かせる術を学びに来たのだ。所謂行儀見習いってやつ。
なのに、何故三年生を過ぎても滞在し続けているのかというと、農業と商業を生業としているうちは、やはり繁盛する分危険も多いし、家族を守る力が欲しかったのも理由の一つ。それから、きっと両親の希望通りの跡取り息子にはなれないであろう事が俺の中にぼんやりとあるからだ。ならば家業を二つ下の弟に譲り、俺は順忍をしながら肉親と今後弟が築く家族を守り、発展の橋渡しを出来たらと思っている。
順忍が向いているっていうのは土井先生のお墨付きだしな。
弟も、俺が家業を継ぐ気が無いのは薄々気付いているみたいで、あいつはあいつで学問の学び舎に通っている。だから俺は、弟が学び舎を出て正式に跡取りとして動き出したら裏に回ろうと決めていた。
まぁ、両親はまだ納得していないし、納得出来る明確な理由を求められても、今の俺は曖昧な苦笑を浮かべるだけで上手く説明が出来ない。俺だって叶えられるなら叶えたいさ。両親には何不自由なく育ててもらい、忍術学園にも通わせて貰っている。

だけど、どうにも出来ない事だってあるじゃないか。

「日向先輩?お茶、温くなっちゃいますよ?」
ぼんやりとそんな事を考えていたら、竹谷が俺の顔を窺うように腰を屈め覗き込んできた。
「お〜悪ぃ。ぼうっとしてた」
俺は苦笑を浮かべて手元の茶器をゆらゆらと揺らした。

ここは忍術学園を下りたふもとの茶屋だ。
あの後、宣言通り後輩達を連れて団子を食べにやって来ていた。
いつも任せっぱなしである事の侘びと親睦を兼ねて。
一年生達は団子の餡を頬にくっつけながらも美味しそうに頬張り、孫兵もジュンコとほのぼのと茶を啜っていた。俺と竹谷はそんな後輩達に幸福を覚えながら茶を一口含む。

「無理しなくても良かったんすよ」
竹谷が視線を前に向けて座り直す。
「先輩、疲れた顔してるくせに俺達に気を遣う必要なんかないっす。先輩が俺達を大事にしてくれている事ちゃんと解かってますから」
照れる事も無く真っ直ぐに言葉を発する竹谷に、逆に俺が照れた。
「ばっか、無理なんてしてねーよ。俺がお前達と茶を飲みたかったの。・・・けど、いつもありがとうな、竹谷。お前には委員長代理を押し付けて苦労させてるよな」
ふぅっ、と思わず溜息が出た。
「ほら、気を遣っているんじゃないっすか!俺、代理が嫌だなんて思ったことないっすよ」
にかっと笑って俺に肩をぶつけてくる竹谷に、ほっとした。
「甘えたな先輩でごめんな〜〜〜」
当てられた肩にぐりぐりと額を擦り付ける。
「先輩、犬みてぇ」
くしゃっと笑う竹谷を見て、俺は本当に後輩達に恵まれたなと感じ入る。
「本当、可愛い後輩達に恵まれて幸せだな〜」
目を細めて一年生達を眺めていると「陽じゃねぇか、後輩達と茶ぁしてんのか?」と、声を掛ける人物が居た。その声の主に振り返ると、留三郎も後輩を連れてこちらに近付いて来る所だった。

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