01



その手を掬う

今日は七夕(なのかのよ)。

ここ、生物委員会でも笹を飾り、短冊に願いを書き込んでいる姿が見受けられた。
「この星飾り、何処が良いかなぁ?」
初島が星の飾りを片手に夢前を振り返る。
「ここはどう?」と、そう夢前が答えると、佐武が「もう少し上に飾ろう。」と、その星を受け取り背伸びをした。
その様子を羨ましそうに、けれどい組のプライドからかなかなか輪に入っていけない上ノ島が見つめている。

「一平、俺の短冊も飾って来てくれねぇかな?」
一年生のはしゃぐ姿を眺めていた竹谷が、やんわりと上ノ島の頭を撫でてそう問いかけた。
「は…はいっ!」
ぱぁっと明るくなった笑顔で上ノ島が答える。
「頼むな。」
にかっと笑った竹谷が、そっと上ノ島の背を押し輪の中へと促す。
すると、とととっと、なんとも一年生らしい足音をさせて上ノ島が輪の中へと入って行った。

その、背をやんわりと押す手をじっと見つめていた伊賀崎は、ゆっくりと口を開いた。
「…竹谷先輩。」
今まで竹谷の隣でずっと黙っていた伊賀崎が、唐突に話を始める。
「僕、夢を見たんです。」
突如話し始めた伊賀崎を別段気にする事もなく、竹谷が「夢?」と、先を促した。
「そう、夢です。それも、七夕の。」
そうぽつりと続ける伊賀崎に、竹谷は「それは奇遇だな」と言おうとして振り向くと、自分をじっと見つめる双眸とぶつかった。

「僕と貴方は、星の河川のあちらとこちらに居ました。それはまるで…」
そこまで言いかけて、伊賀崎はきゅっと唇を噤む。

「僕が手を差し伸べたら、貴方はなんの躊躇いも無くその手を取ってくれました。」
なんの脈絡もない話が唐突に始まり、そして唐突に終わる。
それは伊賀崎に関して珍しい事ではないので、竹谷は静かに聞き入る。


「夢の、話です。」


そう、もう一度呟くと伊賀崎はふいっと前を向いてしまった。
その仕草を見ていた竹谷は、くしゃりと笑って伊賀崎の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「わっ、」と戸惑う伊賀崎の声に構う事無く
「まっ、夢じゃなくても、その手を取るけどな!!」
と続けた竹谷が、伊賀崎の手を掬う。

「さて、俺らは上の方の飾りを付けるか〜」
そう意気込んだ竹谷は、伊賀崎の手を引いて一年生の輪の中へと入って行った。





その手を掬う

(―――貴方はそうやって、欲しい言葉をくれるんですね。)





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