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一歩を踏み出す勇気

※時間軸としては、本編『それは恋情〜』終了後、分岐の■善法寺の手を取る■から暫くしての話しです。ご注意ください。















「ゆっくりと育もうね」と、鴻と恋仲になってから一つと半分の季節を跨ごうとしている。
今は秋も深まり、冬の訪れを感じる季節に入って朝晩は冷え込んで来た。
僕たちは言葉通りゆっくりと、それは落ち着いた夫婦のように穏やかに過ごしていた。
今日までしてきた事と言えば普段と変わらない委員会活動が主で、たまに町へ出掛けてお茶をしたり委員会に必要な物の買い出しをしたり、どちらかの部屋でする事と言えば薬草についての勉学だったり薬草を煎じる作業だったり。
それこそさっき言ったような、落ち着いた夫婦のような事しかしてきていない。
そこまでに積み上げる過程をほとんど飛ばして…という意味で。

それでも“恋情というものがよく分からない”と零していた鴻も、肩の荷が下りた事も手伝ってか心にも余裕が出て来たようで、少しずつ僕に応えてくれるようになった。
それは、口付けを自然に受け入れてくれるようになった事とか、今まで僕が触れる事に対して何処吹く風だったのが、少々緊張した様子を見せるようになった事(普通は逆なのにね)とか、周りから見ればとてもとても些細なことだけれど、鴻の置かれていた状況を考えれば大きな進歩、そして僕の理性をじりじりと焼くには十分な反応だった。

でも…正直、僕はそろそろ限界かなぁと一人微苦笑する。

鴻が気を許してくれればくれる程、僕は理性と葛藤しなければならない。
僕だってお年頃だし、好きな子とはそういう事だってしたいって思ってしまう。
でも、鴻は何処まで僕を想ってくれているのだろう…。
きっと、しようと思えば出来るのだ。
彼は出身柄“経験”という意味では抵抗も通常よりは無いのだろうし、僕が望んでいると知れば“伊作先輩が望むなら”と受け入れてくれそうな気もする。
でも、そうじゃないんだ。それでは意味が無い。
(鴻が望んでくれなければ、僕にとっても意味のない行為だ)

勿論抱きたい。
はしたないと思われるかもしれないけど、好きな子を抱きたいと思うのは男として当然だと思う。でも、単に身体を繋げたいという意味ではなく、心の繋がりの延長に存在したいのだ。
まるで乙女のようだと自分に苦笑が漏れるけれど、鴻だからこそ、彼の感性だからこそ僕はそこを大事にしたかった。
(だから、辛い)
相反する感情と衝動が僕を落ち着かなくさせていた。


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