03




「鴻君、怒っても良いんだよ。君がそうであるように、皆だって受け入れて向き合ってくれるんじゃない?」
そう言って、雑渡が頬杖をついていない方の腕を伸ばす。
「あの時、叫ぶ事だって出来たじゃないの。もっと気持ちを吐露しなさいよ」
何時ぞやかに近江に言った言葉を繰り返す。
そうしながら、俯く近江の頭をゆったりと撫でる様は、どこか情を含むもので何だか面映ゆい。

「何だかんだ言って、貴方は俺に甘い。そういう所が苦手だ」
不貞腐れたように、敬語も忘れて突っぱねる。
「ふふふっ、私は、私にだけしか見せないそういう鴻君が一等好きだよ。堪んないね。だから止められない」
恍惚に浸るような眼差しで近江を見詰める。
「悪趣味」
「褒め言葉だねぇ」
心底愉しそうな笑みを湛えて去なす傍ら、こういう時に年相応な顔をする近江を、雑渡はとても好ましく思っていた。




君だから、

(―――もっと、私に甘えてごらんよ)





[ 38/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]