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染つる

※本編「それは恋情〜」終了後の話になりますのでご注意を!












夏場の長期休みには此処、忍術学園も閑散とする。
それは勿論皆帰省するからだ。
俺も例に洩れず帰省を果たすが、最後の数日間は忍術学園に戻って来て過ごす事にしている。
大抵の生徒はぎりぎりまで実家で過ごし、束の間の一家団欒と休息を得るのが常なのだが、同級である近江鴻が去年まで様々な理由から、夏休みや正月といった特別長期休暇でもほんの数日戻るだけで、後は忍術学園に残るか住み込みで働きに出ているかのどちらかが多かった。
その為、俺たちも少し早めに戻って来る事が多い。
別に頼まれたわけでも淋しいと言われたわけでも、ましてやそんな事を思っているわけじゃない事も承知だが、勝手に俺たちが鴻を独りにしたくはなくて始めた事だった。
“俺たち”というのは、同五年である鉢屋三郎、不破雷蔵、竹谷八左ヱ門、尾浜勘右衛門、そして俺、久々知兵助だ。

忍術学園に入学して五度目の夏休み。
そして、鴻と出会ってから四度目の夏。
毎年とは違う、夏の終わり。

例年通りの事と言えば、鴻の部屋に集まってダラダラと休暇中のことを報告し合う事くらいか。
それでもやっぱり毎年と違うのは、三郎が実家からくすねて来たという酒があるという事だ。
酒…。
「忍なるもの―」と三禁を口にしかけたが、言い終わる前に「まぁまぁ」と勘ちゃんに宥められ「たまにはいいだろ〜今日だけ!なっ!?」と八に拝まれ、最終的には「ちょっとだけ冒険してみようよ」と、雷蔵らしからぬ提案をされて折れた。
せめてもの意地で三郎を睨むも、にやにやと何処吹く風だ。
鴻なら止めてくれるかと視線を送るが「上等な酒だな」と、しげしげと酒瓶を見つめて止める気配は無い。
「…はぁ」
一つ溜息を吐いて降参すると、嬉々として八がお酌をし始め、酒盛りが始まった。


「へぇ〜、今年は鴻もゆっくり帰省してたんだね」
あれから数刻。
勘ちゃんがそう言いながら肴代わりの煎餅をばりばりと噛み砕く。
普段よりも目尻が下がり、目元もほんのり紅い。
「去年までは何だかんだ言って全然帰らなかったもんな、お前」
八も後ろ頭に腕を組んで「良かった良かった」と頷く顔は既に赤く、呑む速度も速いが、回る速度も早いらしい。
「でも、お母さん吃驚したでしょう?その怪我」
雷蔵が苦笑を浮かべて鴻を見遣る。
雷蔵は酒豪の気があるのか、呑む速度も顔色も変わらない。
「あぁ。流石に理由は言えなかったけど、無茶するなって怒られた」
話題の主である鴻が、怒られたと言いつつも面映ゆそうに苦笑した。
「そりゃ怒るに決まってんだろ!そんな大怪我したんじゃ!」
八はひと月程前の出来事を思い出し、眉間に皺を寄せた。

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