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「そうじゃなくて。いや、そうなんだが!つまり、だ。鴻は大丈夫なのかって聞いているんだ。嫌だとか、気持ち悪いとか、そういうのは無いのか」
自分でやらかした癖に詰問するような物言いになってしまった。
それだけ必死で真剣で、私にとっては重要な事だった。

「えっ?嫌じゃないし、気持ち悪いとも思わないよ」
私の心配など全く意に介さない様子で、ふわりと微笑む。

ぶわり、と全身が粟立った。
その答えとその微笑みだけで、許されたような思いになる。

「…鴻、それってどういう」
意味だ?と問う声が、キーンコーンカーンコーンと気の抜ける予鈴の音と被って消される。
「あっ、予鈴だ」
よいしょっと腰を上げて軽く伸びをした鴻が、私を見下ろす。
「行こう、三郎」
少し眇められた目元と綺麗に弧を描いた唇で笑みを零すと、ひらりと身を翻して階段を降りて行く。

残ったのは、茫然と間の抜けた顔をした私と、鴻の飲みかけの珈琲牛乳のパック。

なぁ、これって…




態と?

(―――ミイラ取りがミイラになるって、こういう事か)





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