01



態と?
「テストなんて滅びてしまえ!」
八が叫んで教科書を放り投げる。
「小テスト如きで何を言っているんだ」
ふんっと鼻を鳴らして小馬鹿にする私を、八がぎっと睨む。
「三郎にこの苦悩が分かるかぁぁぁぁぁ」
そう唸り頭を抱えた八を無視して、私はお茶のペットボトルを口に運ぶ。
「小テストでそれじゃぁ…」
「期末は終わったね」
兵助が同情と呆れを混ぜたような顔をし、勘右衛門が語尾に星とか音符とか付きそうな、漫画さながらな声で八の肩に手を置いた。
「勘右衛門酷でぇ!面白がんなよ!ってか兵助!そんな目で俺を見ないでくれ!」
いちいち律儀というか何と言うか、わざわざ突っ込みを入れて嘆く。
「はっちゃん、教科書投げちゃ駄目だよ。傷んじゃうよ?」
雷蔵が放り出された教科書を拾い、ぽんぽんと軽く埃を払って手渡す。
「立ったついでに僕もう行かなきゃ。昼休み、委員会当番なんだ」
残念そうに眉を下げた雷蔵が、空になったお弁当袋を持って告げる。

ここは屋上への扉がある踊り場。
今は昼休みで、私たちは昼食を共にしていた最中だった。
私、鉢屋三郎と教科書を放り投げた竹谷八左ヱ門、そしてそれを拾ってやった心優しい不破雷蔵は、高校に入学してすぐに仲良くなったクラスメイトだ。
さっき八を憐れんでいた方が隣のクラスであるA組在籍の久々知兵助で、面白がっていた方が同じくA組在籍の尾浜勘右衛門。
最後に、今飲み物を買いに出ているC組の近江鴻という男を含め6人で意気投合し、昼食を共にする事がしょっちゅうあった。
クラスがバラバラの私たちにとって、屋上やこの踊り場は最適な溜まり場だ。
流石に冬場の屋上に出て昼食を摂るなんて酔狂な事はしない。
だから必然的に扉付近の踊り場に溜まる。
加えてここには使われなくなったマットやカラーコーンが倉庫代わりに少し置かれており、最上階という事もあって良い死角になる為、私たちにとっては寛ぎの場になっているというわけだ。

「あれ?雷蔵もう行くのか?」
トントンと軽やかな足音と共に顔を出した鴻が残念そうに問う。
「うん、委員会の時間だから。僕もゆっくりしてたかったけど…また後でね」
雷蔵もつられて残念そうに肩を落として微笑むと、私たちに手を振って階下へと降りて行く。
「俺たちA組も、次の科学実験の準備があるからそろそろ行かなきゃ。…勘ちゃん」
優等生の兵助らしく、きっちり授業前に準備しに向かおうとするのとは正反対に、勘右衛門が「え〜面倒臭い〜〜〜」とマットの上に伸びた。
「ふざけてないで行くよ、勘ちゃん」
はぁ、と軽く溜息を吐いた兵助が再び勘右衛門を呼ぶ。
きっちりタイプの兵助と、のんびり適当タイプの勘右衛門はご覧の通り真逆だ。
しかし、呆れた様な物言いとは裏腹に何故か2人は仲が良い。
まぁ、それを言ったら6人全員がタイプ別で、それで仲が良いのだからバランスがとれているって事なんだろう。
…いや、バランスは本当にとれているんだろうか?

「ッしゃぁぁぁ!俺も腹を括って再テスト受けてくっぞぉぉぉ!!」
兵助に腕を引かれてのっそり起き上がった勘右衛門に倣って八もガバッと立ち上がる。
そんなに気合が必要か。小テスト如きで。
「じゃぁ、また。鴻、三郎」
と、兵助が目だけで挨拶をし
「まったねぇ〜」
と、勘右衛門が引かれていない方の手をひらひらを振って階段を降りて行く。
「んじゃ、放課後な!」
八も快活な笑顔を残して2人を追って行った。

結果、残されたのは私と鴻の2人。



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