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Halloween

今日はハロウィン。
いつの間にか、日本でもイベント化しつつある行事だ。
街並み一帯がかぼちゃのお化けやカラフルなお菓子でデコレーションされ、人々をどこか浮足立たせていた。
かく言う僕たちの高校でも、朝からささやかながら楽しまれていた。
あちこちから“Trick or treat”の声が聞こえ、同級生の小平太は女生徒から沢山お菓子を与えられて終始ご機嫌だった。留三郎は男女問わず「Trick or treat」と投げ掛けられれば持参していた飴を分け、仙蔵はお菓子を持っていない事を良い事に、女生徒にここぞとばかり“悪戯”という名ばかりの抱擁を受けていた。そういうのを少しも臆さず受け流せる仙蔵を尊敬するよ、本当。
長次は手製のミニカップケーキを、声を掛けられると分けていた。長次のお菓子はとても美味しいから朝から大人気だった。一番縁遠そうな文次郎は眉間に皺を寄せて「学校に不必要なモンを持って来るなバカタレィ!」って怒ってたなぁ。ふふっ、皆らしくて微笑ましい。
僕はと言うと、可も無く不可も無く。委員会で動き回っている事の方が多かったから、貰うような事は特にしなかった。一応声を掛けられれば持ち合わせていたお菓子をあげたりはしたけど。

でも、1度くらいは言いたいよね。せっかくのハロウィンだし。

そんな事を放課後、一学年下の後輩の近江鴻と委員会活動を行いながら考えていた。
今日は備品のチェックと、ベッドのシーツ交換だけだから2人でやってしまおうと言ったので、今保健室内には僕と鴻だけだ。
…あれ、意識したらドキドキしてきた。
そんな僕の緊張を知ってか知らずか、鴻が突如話を振る。

「今日は、校内が華やかな雰囲気でしたね。」
にこりと穏やかに微笑む鴻が、作業の手を止めずに視線だけで僕に問う。
その瞳に見つめられただけで、僕の心音がトクリと脈打つ。
「そうだね。それに甘い匂いだった。」
僕もふふっと微笑んで鴻の方に視線を向けた。
「確かに。お菓子の良い匂いがしていましたね。皆、色とりどりのお菓子を食べたりあげたり。」
くつくつと楽しそうに喉の奥で笑う鴻が「先輩は誰かに悪戯したりしたんですか?」と続けた。
「僕はバタバタしていたからその暇が無かったんだ。鴻は何かした?」
肩を竦めておどけたように聞けば
「そうですね。三郎たちや女子から声を掛けられたので、少し。あっ、悪戯はしていませんよ。お菓子を貰いました。まぁ、そのお菓子も後輩に分けちゃったんですけど。」
少しバツが悪そうに「ははっ」と苦笑を浮かべた鴻がシーツを剥ぐ。
それに倣って僕も鴻の隣のベッドへ歩み寄る。
「良いなぁ。僕ももうちょっとハロウィン満喫すれば良かった。」
少し拗ねたように愚痴を零してシーツを剥ぐ。
「あっ、良い事思いついた。」
僕はシーツを剥いでいた手を止め、閃いた悪戯を実行することにした。
折角のハロウィンだし、ね。


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