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君に触れたがる手

高校に入学して半年。

少し前まで猛暑かつ残暑厳しくうんざりだと呻いていたはずなのに、乙女心と秋の空はなんとやら。まるで真昼に遮光カーテンを引いたかのようにガラリと暑さは成りを潜ませ、今日はぐんと気温の低い朝になった。

「おはよう、三郎。」
通学路を歩く最中そう声を掛けて来たのは、同じクラスの不破雷蔵だった。
「おはよう、雷蔵。」
にこりと微笑む雷蔵に、私も同じく微笑みを浮かべて挨拶を返す。
「そうやっていると本当に同じ顔だよな、お前ら。俺たまに分かんなくなるわ。」
むむぅっと悩む素振りをしてそう零したのは、私と雷蔵と同じクラスの竹谷八左ヱ門。
そう。八の言う通り私と雷蔵は驚く程顔が似ていた。いや、顔だけではなく背丈や髪質、意識すれば声質までもが似ていた。
唯一性格だけが見極める判断材料となっていたようだが、私と雷蔵が意識してどちらかの真似をしてしまえばそれも叶わず。時々授業中に席を入れ替わってもバレない程度に似ている。
けれど、私たちは歴とした他人だ。双子でもなければ親戚でもない。この学校に入学するまでお互いに全く知らない存在だった。だというのに、出会った時のあの衝撃を何と表現すれば良いのだろうか。初対面にして抱き付きたくなる懐かしさが込み上げた。

「ふふっ、世の中には自分に似た人が3人は居るって言うけど、僕たちの場合は似ている所ではないもんね。はっちゃんが未だに迷うのも分かるよ。」
そう苦笑を浮かべた雷蔵は「でもはっちゃん、最近は間違えないね。」と、柔らかい笑みを八に向けた。
「おぅ。最初散々間違えたからな。学習した。」
痛いところを突かれ、照れたような苦笑を浮かべた八が後ろ頭をガシガシと掻く。

八左ヱ門とツルむようになったのは同じく入学式の日。
クラスに入り間もなく、雷蔵と私のそっくり振りに興味を持ったのか、声を掛けて来たのが切っ掛けだった。八も雷蔵と同様、出会った時に込み上げる懐かしさがあったが、面白半分で付き纏われても面倒なので不機嫌を露わにした。しかし、八は気分を害す所か大らかな笑みと快活な態度で「宜しく!!」と、ブンブンと握手をされた。毒気を抜かれた私は、そこからなんとなく雷蔵と八と共に居る事が多くなった。

「あっ、兵助と勘ちゃんだ。」
もうすぐ校門が見えるという所で、雷蔵が前方に見知った姿を見付けた。
「兵〜助!勘右衛も〜〜〜ん!!」と、八が続いて叫ぶ。
「…煩い、八。」
その声にむすりと顔を歪ませた兵助が振り向く。
「朝から元気だねぇ八は。」
同じく緩慢な仕草で振り向いた勘右衛門は、眉を八の字に下げて肩を窄ませた。

兵助と勘右衛門は1年A組で、私たちB組の隣のクラスの人間だ。
合同体育の授業で一緒になったのが切っ掛けだったのだが、やはりお互いに言い得ぬ懐かしさを感じ、仲良くなるのにそう時間は掛らなかった。


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