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二人が出会ったのは戦火の渦中だった。
忍務で赴いていた近江を、同じくして戦場に居た雑渡が目に留め、何かと構う事が始まりだった。
敵対として場が重なる事は無かった為、煙たがってはいたものの、執拗に構う雑渡を無碍には出来ず、ほとほと困っていた矢先忍術学園の保健室で再開した時には、流石の近江も虚を突かれた顔をしたものだ。
それからというもの、保健委員会所属の身である近江は、戦場と保健室という二つの場所で幾分周りより雑渡に遭遇する機会が増えた為に、雑渡からは善法寺に向けるそれとは違った興味と無遠慮さを向けられていた。
それが見ての通り、現状のような結果を生み出していた。

「伏木蔵はもとより、残念ながら伊作先輩も、もうお休みだと思われますよ?昨夜、徹夜で薬草を煮立てておられたようですので。」
雑渡が忍術学園へ赴いてくるのは、大抵善法寺か鶴町に会いに来る事が多いので今回も疑わずに二人の所在を告げる。
「そう。でも伊作君たちに会いに来たわけじゃないんだよねぇ、今回は。」
ふぅ、っと小さく溜息を吐いた雑渡がごろり、と前方に倒れ込むように横向きに寝そべった。つまり、向かい合っていた近江の正座正面に雑渡の横顔があるというわけだ。

ふわり、と土埃と鉄を含む少し湿った、老いた男のような匂いが漂う。
老いた、というのは、雑渡の自己回復不可能にまで達してしまった火傷の痕に塗られている薬草の匂いが醸し出している雰囲気でもあった。
「…お疲れのようですね。」
眼下の横顔を見つめて、近江は小さく零す。
「ん〜、歳かねぇ。でも鴻君が膝を貸してくれたら、おじさん元気になっちゃうよ。」
そうおどけて語尾を子どもっぽく言い放ち、視線だけを投げて寄こした雑渡に「いい大人が何を可愛子ぶっているのです」と、近江は苦笑を浮かべ、ポンっと自身の膝を一つ叩いた。

「…お好きに、どうぞ。」
先程と同じ言葉を口にした近江を、雑渡が物珍しそうに見上げた。
「本当に今日は気前が良いねぇ。どうしたの?」
くくっ、と、こちらもまた珍しく弱る姿を見せ、嬉しそうに目元を綻ばせる姿を晒しながら雑渡が問う。
「今宵が、満月だからですよ。」
満月は人をおかしくさせると言うでしょう?ただの気まぐれです。と近江が言葉を続けた。
「そう…そのお陰で珍しい体験が出来ているわけだ。」
近江の膝に頭を預けた雑渡の瞼が、ゆるりと重そうに閉じかかる。
(雑渡さんこそ珍しい。こんなにも無防備な姿を見せるだなんて…)
近江が胸中で呟く。



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