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「それよりも今晩の飯は素麺だとよ!行こうぜ!」
花より団子の男竹谷が、お腹を擦って皆を急かした。
「八には情緒というものがないのか。」
鉢屋がじとっと竹谷をねめつけた。
「情緒で腹がいっぱいになるもんか!!」
なんだか得意気に言い返す竹谷を、鉢屋が呆れたように一蹴りした。
「痛てぇ!こら、三郎!!」
そう何だかんだとじゃれ合って食堂へと走って行ってしまった。

「さて、俺たちも行きますか。」
よいしょっと腰を上げた尾浜に続いて、久々知・不破・近江も従った。

食堂に行ってみると、飯台の長机横いっぱいに竹筒が置かれており、その中に素麺が水に浸って揺らいでいた。
「今晩は七夕に因んで、素麺にしたのよ。」
食堂のおばちゃんがにっこりと微笑んで麺つゆと薬味、それだけでは育ち盛りの子ども達は満たされるはずもなく、夏野菜の天ぷらや鶏の葱塩和え、芋類の甘煮と箸の乗った盆を渡してくれる。
「七夕に素麺を食べると大病をしないと言われているの。夏場の弱った体に、消化の良い素麺を食べて労わるっていう意味もあるんだけど、天の川に見立てて食べていたという説もあるのよ。」
浪漫があるわよね〜と、食堂のおばちゃんがうっとりとして続けた。

「そんな意味合いがあったのか。」
へぇ〜と感心したように竹谷が席に座る。
「何だ、八でも浪漫を感じるのか?」
くつくつと笑った鉢屋がその隣に座る。
「でもそう考えると、何か特別に見えてくるよね、今日の素麺。」
ふんわりと微笑む不破が鉢屋の隣に座った。
「同じ白いものなら…豆腐でも良くないか?竹筒に浮かべるというのも、何とも風流で清涼な感じがするじゃないか!身体にも良いし!」
竹谷の向かいに座った久々知が力説した。
「ははっ、でも素麺でなくちゃいけない意味もちゃんとあるんだ。さっきの七夕の由来に続くんだけど、細く長い素麺を糸に見立てて裁縫の上達を祈願したという説話もある。」
そう近江が諭しながら久々知の隣に座ると「残念だったね〜兵助。」と、けらけらと笑う尾浜が近江の隣に座った。


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