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天空に祈りを捧げて

今日は七夕(なのかのよ)。
ここ忍術学園でもその祭り事は実施されており、学園長や作法委員会では花合わせが行われていた。
作法委員会では、作法委員会委員長の六年い組、立花仙蔵の名に因んで立花(りっか)が行われていた。
言わずもがな、四年い組の綾部喜八郎は関心を見せず、ぼんやりとその様子を眺めていた。穴掘りに行かず、出席しているだけましだと言えよう。綾部とは正反対で、真面目が専売特許の三年は組の浦風藤内は、どこに何の花を生けたら見栄えが良いかを、一年い組の黒門伝七と相談し合っていた。残る一年は組の笹山兵太夫はと言うと、蔓蔦を難解に結び、一種のからくりの様な造型を一部に生み出していた。
「こら、兵太夫。これは個人で生けているのではないのだぞ。」
苦笑を浮かべた立花が、ぺしり、と軽く笹山の頭を叩く。
「・・・はーい。」
わざと痛がるように頭を押えた笹山は、唇を尖らせ拗ねた様子を見せるものの、その表情はとても楽しそうだった。

作法委員会とは逆に、学園長先生は庵でヘムヘムと抛入れ(なげいれ)花を行っていた。
こじんまりと、けれど品良く器が飾られていく。
その学園長先生とヘムヘムの耳に、庭先で笹竹を飾る子どもたちの声がきゃっきゃと届いた。

「これ、何処に飾ろうか?」
「ここは?」
「なぁなぁ、願い事何書いた?」
などと一年生のはしゃぐ声が絶え間なく続く。
その手には短冊が握られ、せっせと願い事を綴っているようだった。
上級生であれば歌や時を書いて青竹に飾りつけ、下級生であれば歌や時よりも己の願いや、中には煩悩といえるような願望を綴った短冊も垣間見えた。
そうやって祈りを込めて、今宵の夜空へと想いを馳せるのだった。

その様子を縁側で見ていた五年生の面々は、至極穏やかなものだった。
「ふふっ、楽しそうだね。」
不破が優しく目元を綻ばせ、下級生を見つめた。
「本当だな。それにしても、あんなに願い事を書いてどうするんだろう。」
短冊の多さに、久々知が小さく溜息を吐く。
「皆叶えたい事がいっぱいあるんだねぇ。夢がある事は良い事だよ、うん。」
なんて、尾浜が年寄り染みた事を言う。
「ははっ、本来は布を織る女性たちの、棚機(たなばた)が由来なんだけどな。」
だから、織物や芸事の上達を願うはずなんだけど…まぁいいか。と近江が可笑しそうに続けた。

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