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共犯だって、知らないで

「孫兵?どうしたんだ?」
庭の草むらに這いつくばっている僕に声を掛けてきたのは、濡れ羽色の髪と濃紺の制服が良く似合う、五年は組の近江鴻先輩だった。
「・・・ジュンコが。僕がチョウ子とチョウ助に意識を向けていた一寸の間に、離れてしまって・・・。」
僕は脇に置いておいたチョウ子とチョウ助が居る籠に視線を送った。
「ははっ、いじらしい子だなジュンコは。孫兵がチョウ子とチョウ助に構うのにやきもちをやいたのかもな。」
そう先輩は、屈託なく笑った。

チョウ子、チョウ助、そしてジュンコは生物委員会の中でも世話する人間は上級生だけと定められるほどの猛毒性を持ち、誤って脱走してしまったときは学園内が騒然とするほどの騒ぎになる。故に犬猿されやすく、ジュンコと居る僕や、その他“毒虫”と呼ばれる生物と共に居るときは変わったモノを見るような目線を向けられることがままあった。
別段僕は困りはしなかったし、ジュンコたちが居れば良かったので構わなかった。
「毒虫野郎」などと呼ばれることもあったけど、認識のされ方なんて僕にとっては瑣末な事で、元々人にさほど興味が無かった僕には関係の無い事だった。

今となってはお節介な同級も含み、竹谷先輩などの生物委員会の皆とは交流を持つようにはなったけれど、僕は一等この先輩が好きだった。
それは、最初から偏見を持つことなく“伊賀崎孫兵”という人間とジュンコたちを知ろうとしてくれたから。

先輩はジュンコたちが脱走しようとそれを苦だと思わず、彼女らの愛情表現だと言ってくれる。
勿論安易に考えているというわけではなく、きちんと猛毒性を視野に入れ俊敏な対応と、もしもの時の処置道具を持参して探索にあたってくれる。
彼のそういう所を僕は尊敬していた。

「八左ヱ門たちには知らせたのか?」
先輩を見上げたままだった僕に、既に探索する体制に入りながら問う。
「いえ。首元から離れて慌てて後を追った矢先に、先輩に出会いましたので・・・。まだです。」
申し訳なく、眉間に弱気な皺を寄せる僕の頭を先輩が優しく撫でた。

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