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全部伝わってしまえばいい

今日は、五・六年合同で町での実習だった。
内容は女装した五年とペアを組み、恋仲の振りをして、町でそれぞれのペアに与えられた課題を遂行し、そのまま帰還するというものだった。
忍務の内容によっては、くノ一と夫婦の振りをして長期間滞在しなければならないものや、男手のみが必要な時は商いをしたり、女装で紛れられるなら恋仲や夫婦に見せ掛けた方が動きやすい為、このような訓練も授業に組まれる。

五年にとっては、合同の課題遂行と女装の二種類の実習を同時にさせられる。
気の配り方や言葉使い、所作や課題やらと気を回さなくちゃならない所が多い。
俺たち六年はその補佐みたいなものだから幾分気は楽だが…まぁ、当たった相手によっては過酷にもなるんだろうなぁとも思う。

体格的な問題だったり顔の作り的にどう頑張っても男にしか見えない相手と組んだ時には、溜息の一つも吐きたくなるってもんだ。
仲睦ましく振舞い、道中を歩く姿は滑稽だろう。
不慣れな相手ならば男だというボロも出やすい。それがこの授業の恐い所だ。
かく言う俺も女装の為の化粧や所作は苦手だ!

だが、今回俺と組む事になったこいつは、大層女装が上手かった。
出身の関係もあるのか、所作は丁寧で控えめ。見た目も華美にはならず大人しい雰囲気だ。
男というのを忘れそうになる程はんなりとした仕草は、俺を落ち着かなくさせた。

「…どうかなさいましたか?」

無事課題も終え、帰路についた矢先に降ってきた雨。
それを凌ごうと入った軒下で、俺の髪についた雨粒を、まるで乙女のような仕草で拭うこいつに釘付けになっていた。
「いや…何でも無い。」
ぶっきらぼうにそう言う俺に、くすくすと笑む声が返る。
「ふふっ、可笑しな留三郎様…。」
耳朶を擽るその声に、カッと熱が集まるのが分かった。
この呼び方にも原因はある。
いつもは“食満先輩”と呼ぶのだが、今は恋仲。それらしい呼び方をせねばならないとあらば、名前が一番無難だという事で今に至る。

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