01



目を逸らして曖昧にして

「三木、ゆり子の調子はどうだ?」
庭先で石火矢の手入れをしていた私に、先輩が声を掛ける。

「近江先輩、こんにちは。今日はとても天気が良いので、きっとゆり子も気持ちが良いだろうと思い、手入れに力を入れていたところなんですよ!」
嬉々として愛妻・・・ではない、愛武器であるゆり子をに視線を戻すと、ふわりと先輩の手のひらが私の頭上を包む。

「相変わらず愛情たっぷりで、ゆり子は幸せだな。そんな風に必要とされて手入れをしてもらえれば、ゆり子も本望だろうな。」
ぽんぽんと、頭上に置いた手を動かし優しく撫でてくれる。

自分で言うのもなんだが、私はゆり子を愛している。ゆり子だけではなく鹿子も春子もさち子も然り。
そう言う私を、周りは閉口し呆れたような瞳で見つめてくる時がある。
私はアイドルだから、見惚れられる事はあっても、それとは別の視線を投げられるのは理解し難い。
しかし先輩はそんな視線を私に向けることは無く、いつも愛する彼女達を一緒に愛でて話掛けてくれる。

私は近江先輩のこういうところが素晴らしいと思う。
ひとつしか年齢が変わらないのに、こうも大人になれるものなのだろうか。

滝夜叉丸の自慢を楽しそうに聞き、喜八郎のひっつき虫を嫌がることなく、タカ丸さんの髪結いにも付き合っている。そして、私の彼女達に対する愛にも偏見を持たずに接してくれる。

まだまだ自分の物差しでしか周りを測れない事の方が多い年齢でもあるはずなのに。
頭で分かっていても、私もなかなかに出来たことではない。
それでも、先輩は事も無げにそれが出来る人なのだ。

「あっ、三木、頬に煤がついているぞ。」
そんな事をぼんやり考えていた私の頬に、近江先輩が親指の腹で触れる。

クッと煤を拭われ、思わずびくんと肩を跳ねさせてしまった。
「あっ、悪い、驚かせたか?」
そう問う近江先輩に「いいえ!大丈夫です!ありがとうございます!」と、私は勢いよくお辞儀をするしかなかった。




目を逸らして曖昧にして

(―――困った。頬が、馬鹿みたいに熱い…)





[ 4/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]






- ナノ -