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それすら愛しい、深手の心

ドガシャ―――ン!!

盛大に何かが崩壊する音が響く。
ガラガラ…と、続いて崩壊した物が崩れ落ちる音がした。
「七松先輩…貴方ってお人は。」
崩壊する音に駆けつけた近江は、惨事を見つめて苦笑を浮かべた。
「もう少し手加減していただけませんか?怪我人が出てからでは遅いのですよ?」

やんわりと諭すように近江に叱られている相手は、体育委員会委員長六年ろ組の七松小平太である。
彼は尋常ではない体力を持ち、向こう見ずで大らかな性格が災いして暴君と呼ばれていた。
彼にとって準備運動の範囲であるマラソンや、楽しい触れ合いは最早殺人の域であり、バレーボールに関しては条件反射と力加減の出来無さで破壊の魔球となっていた。
ここで言う破壊には、周りを破壊するという意味とボール自体を破壊するという意味が含まれる。
更に言えば、某不運委員会と噂されている人達の身体の一部までも破壊するんじゃないかという程の命中率でもある。
これは七松だけに非があるわけではないのだが…。

「すまん、すまん!つい楽しくってな!どうだ、鴻も一緒にやろう!」
反省している様子など微塵も感じさせない程あっけらかんと笑う七松が誘う。
「残念ですが、俺は食満先輩にこの事を伝えて修理を手伝うので。またの機会にお願いします。」
破壊された戸の残骸と、落下した瓦の破片を集めながら近江は苦笑を零した。

「お前は保健委員会だろう?なのに用具委員会の仕事もするのか?」
きょとんとした表情で七松が問う。
「用具委員会は下級生が多いので、危険な場所や重労働となると人手が足りないようなのですよ。俺に手伝える事があるならと思いまして。」
近江は、用具委員会の皆を思い浮かべて微笑んだ。

「そうか。それ『わ〜、すみませ〜ん、ボールが!』
七松が言葉を続ける前に下級生と思われる、まだ変声期前の少し高い声がそれを遮る。
二人が声の方に視点を合わせるよりも前に視界に入ったボールを仰ぎ見た。
「イケイケどんど〜んッ!!」
こちらに誤って飛んで来てしまったボールを、七松が条件反射でアタックする。
「きゃぁ〜〜〜〜〜!!!!」
当たっては敵わないと、一目散で下級生たちが逃げた。
それはもう、蜘蛛の子を散らしたように。
案の定地面に叩きつけられたボールは圧力に耐えられず破裂し、見るも無残な姿になった。

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