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この二人は面識があった。
それは雑渡が六年は組、保健委員会委員長である善法寺伊作に助けられたのを機に忍術学園へ遊びに行くよりも前からの事だった。
偶然戦場で出会い、敵ではないと判ったものの、特に関わりを持たないようにとしていた近江とは違い、何故か雑渡は興味を示してきた。
やんわりとかわしつつのはずだったのだが、バッタリ忍術学園の保健室で会った時は流石の近江も面食らった。
それからは素情もお互い分かってしまったし、という事で拒まなくなったのを良い事に、雑渡は何かと近江を構ってくるようになった。

「う〜ん?私はねぇ、敵情視察ってやつかなぁ」と、全くその気の無さそうな声色で答える。
目の前の惨状とは裏腹に、今にも鼻歌を歌い出しそうな程関心を寄せず、ただ雑渡の周りだけが切り離されているようだった。
「流石ですね、その余裕。感服しますよ。」
近江が苦々しい笑みを浮かべる。
「だって私はただのお仕事だもの。君と違って。」
くつり、と喉を鳴らして嗤う雑渡が近江を見遣る。
「………。」
近江は、苦虫を噛み潰したような表情を一瞬見せた。
「くっくっくっ、好いねぇ。大好きだよ、君のその顔。」
布越しでも判る程心底可笑しそうに、喜悦の入った笑みを浮かべる。

「悪いお人。俺をからかっておいでなのですか?」
くすり、と近江は笑みを零すものの、珍しく目が笑えていない。
「大分余裕が無くなっているね。顔色も悪い。その装束の参事は…君自身のものではなさそうだけど、酷いねぇ。」
すっぽり鼻の上まで隠されている近江の顔面から唯一覗かせている、目元の色濃い隈と血の気の薄い肌から読み取る。
その近江の身体を包んでいる漆黒の忍装束は、どろりと浅黒く血塗られていた。
他人の血汐で重みを増した装束はまるで、お前を許しはしない、と彼自身を抱き込んでいるようだと錯覚を起こしそうな程禍々しく見えた。

「少し痩せたかい?」
雑渡は、覆布から少しはみ出している近江の前髪を、ついっと指で退かす。



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