01



行動も気持ちも、裏の策略があったとしても

「おや、君は忍術学園の近江鴻君じゃないの。奇遇だね〜」
そう声を掛けてきたのはタソガレドキ城の忍頭、雑渡昆奈門だった。
「こんばんは、雑渡さん。」
ちらりと目線だけを雑渡に送り、挨拶をする。
「驚かないんだねぇ、完璧に気配消して来たのに。」
わざと肩を竦めて困った素振りをする雑渡は、体重を感じさせない浮遊力をもって近江の立つ木まで飛ぶ。
「いえ、完璧でしたよ。お見事でした。ただ、そこまで完璧に消して来るのは貴方くらいだと思いましたので。空気の振動変化に気が付かなかったら背後を取られるところでした。」
近江は薄く笑むと、視線を再び先程まで見詰めていた方へと向ける。
「そんな些細な空気の変化読み取っちゃう君も君だよねぇ」
と零す雑渡が、スッと足音も無く近江の横へと並ぶと、その目線の先を追う。

「おやおや、飽きもせずよくやるね〜」
ふっふっふっ、と抱帯と覆布に隠された下で嗤う。
見遣った先には轟く怒号と悲鳴と火縄銃の筒音。
もくもくと立ちこめる灰の舞う煙。
轟々と炎上する、木々の爆せる音。
火薬と肉の焼ける臭い。
刃のかち合う音。
ドス黒い血飛沫が土にじわりと染み込むあり様。
おかしな方向に身体を曲げた子ども。
うつ伏せで目を剥いた大人。
だらりと舌を出して倒れている老人。
もげた手足・頭・肢体、死体、死 体、 死  体  

「あそこの城主は本当戦が好きだね〜。あっ、私の所の城主も人の事言えないかぁ。」
くつくつと雑渡が嘲笑う。
「それで、鴻君は見学かい?」
「…まぁ、半分は。雑渡さんこそどうされたんです?」
と近江が問う。


[ 63/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]