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泣いているのかと思いました

今日私、一年は組の猪名寺乱太郎は委員会当番日ではなかったのだけれど、善法寺先輩からのお達しで全授業終了後、同学ろ組である鶴町伏木蔵と一緒に保健室へと向かった。

「全員集合って・・・また何かあったのかな?もしかして薬棚引っくり返したとか。」
ぽつりと私が零せば「それって、すっごくスリル〜」と伏木蔵がふるりと身震いした。

以前、保健委員会委員長である善法寺先輩が、救急箱に躓いた拍子に棚ごと引っくり返した事があった。
あの時は保健委員会総出でも、朝靄がかかる頃まで掃除するのに時刻を費やした。
その時を思い出した私と伏木蔵は、「わ〜」と竦む。

「失礼します。一年猪名寺乱太郎と」
「鶴町伏木蔵です〜」
と声を掛けて戸を開ける。

その瞬間、ふわりと漂う甘い香り。

「わぁ〜草団子の匂いです〜」
鶴町がとてとてと匂いのする方へと駆ける。
「やぁ、急に呼び出して悪かったね、乱太郎に伏木蔵。」
善法寺が二人の方に顔を向けてにこりと笑う。
その手元には草団子がこんもりと盛ってある笹包みがあった。

「どうしたんですか?そのお団子。」
私がそう尋ねると
「これはね、昨日町へ行かれた近江先輩が、僕たちにお土産にって買ってきて下さったんだよ。」
と、三年は組の三反田数馬先輩が教えてくれた。

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