02




鴻は、変わらずの柔らかい笑みを浮かべる。
…本当羨ましいよ、その余裕。
余裕そうでも相手を嘗めたりしないからこその実力なんだろうなと思う。
顔色は変えずに堅実に攻める。謀ったり惑わせたりはするけど、相手を嘗めたり侮ったりはしない。
そこがこいつの凄いところだよな〜。

「まぁ、な。本当、あいつ等には助けられっぱなしだぜっ。感謝している。」
そう情けない笑顔で、協力してくれている“あいつ等”に労いの思いを馳せる。
「ははっ、八左ヱ門のその想いがあるから協力してくれるんじゃないか。」
お前が愛情と責任を持って世話をして、心通わせて、信じて信じられてという絆をきちんと築いて来られたから、あの子らも仲間だって思ってくれているんだろう?すげぇな、八!と、鴻が続けた。
「ばっ!!なんつー事言うんだよお前は!恥ずかしいな!」
俺は照れるあまりバンバンと鴻の背中を叩く。
「うおっ、と。時に八、状況はどんな感じだ?」
俺に叩かれた勢いで少し前のめりになった鴻が俺を見上げる。
不覚にもその上目使いにどきん、と心臓が一際大きな音を出したような気がした。

「あ…あぁ!」
そう返事をして神経を研ぎ澄ます。
空を飛ぶ無数の眼、木々を渡り地を走る無数の手足、幾万の鼓動と吐息が俺に語りかける。
この森に住む鳥たち、獣たち、虫たちは俺に協力してくれているのだ。
さんきゅーな、おまえ等。大好きだぜ。

ピーッと指笛を鳴らすと、森がざわめいた。
「上々。すぐ近くには敵はいないようだ。が、卯の方角に固まった気配がある。」
俺が答えれば「罠を仕掛けているんだな、あの辺りは良い仕掛け場所になるからな。」と鴻が苦笑する。
そのままくるりと上空を見まわした鴻が言葉を続ける。
「丁(ひのと)の方角に潜んだ気配を感じる。様子を窺われてんのか…大方三郎たちだろうな〜こんなに早く目星付けて進んで来るってことは。」
仲良しなのも大変だな、バレちゃってら〜と鴻がおどける。
「あっはっはっ、違げぇ無ぇ。」
俺もつられて笑う。

嬉しかった。どうしてか、嬉しくて仕方がなかった。



[ 52/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



- ナノ -