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「気にするな、文次郎が委員会や鍛錬などで不在なのはいつもの事だ。別段変わりはしない。」
立花がスッと目を細めて微笑む。
優美な笑みが、湯上りの夜着と仄かに上気した頬、背に流された絹糸のようなサラサラな髪と相俟って妖艶さを孕む。

「この深い椿色、立花先輩のような透き通った柔肌には本に似合うと思うのですよ。」
懐から小貝の入れ物を取り出していた近江も、つられて流麗な言葉遣いと共に微笑を浮かべた。
「試しに付けさせて頂こう。」
差し出された小貝を受け取り、立花が紅を小指で掬う。

そのままツーっと、柔らかい立花の下唇に小指がいざれば、深紅の線が引かれた。
「…本当に、好い色だな。」
立花が手鏡を覗き、満足気に零す。
「はい、とても良くお似合いです。」
近江も、立花が気に入った様子に顔を綻ばせた。

「お前の肌にも似合いそうだな。」
ちらり、と立花が近江を見遣る。
「えっ?」
きょとんと近江が見返すが「試してみるか。」と、立花は有無を言わせない雰囲気で近江に詰め寄って行った。

再び小指に紅を掬う。それを鴻の下唇に這わせた。
鴻は無頓着ではないものの、そこまで手入れがされているわけでもないので、やはり唇はカサつき気味だった。
その唇にツッと紅が引かれる感触に、鴻はふるり、と身体を震わせた。
ほんのり開かれた唇。
紅が落とされ、微かに見上げられた視線。
ぞくり、と背中が粟立った。
無意識に口角が上がる。

「艶めかしいものだな。女装をしているわけでも、ましてや女子でも無いというのに。」
くつりと立花が咽喉を鳴らして笑う。



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