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紅にさえ、嫉妬を覚ゆ

ふっと部屋の前に気配が現れる。
こんなギリギリまで見事に気配も足音も消して来る奴と言ったら大分絞られる。
少なくとも、この忍術学園の生徒では片手にも満たないだろう。

「…鴻か?」
私は知る気配の主に声を掛ける。
「夜分に申し訳ありません、お邪魔しても宜しいでしょうか?」

時刻は夜四つ頃。
風呂も済ませ、自室で本を読んでいた折の訪問者だった。
私は立ち上がり障子を開けてやると、居住まいを正した鴻が正座をしていた。

「こんばんは、立花先輩。」
にこりと近江が微笑む。
「どうした、こんな時刻に。」
この部屋の主、六年い組の立花が問う。
「今日、仲間たちと町へ出掛けたのです。そこで立ち寄った小間物屋に好い色合いの紅を見つけまして。それが立花先輩に良くお似合いだと思ったものですから…。」
そこで近江は一つ言葉を区切った。
「早くお渡ししたかったとは言え、不作法な時刻での訪問でした。申し訳ありません。」
スッと背筋を伸ばし、優雅な所作で三つ指をつく。

「ふっ、そう畏まるな。気を楽にしろ。」
思わず立花が笑む。

近江は時折、こうやって作法委員会委員長の立花仙蔵の元へ来る。
最初は立花からの猛烈な委員会勧誘だったのだが、それも落ち着いた頃から(しかし、立花はまだ諦めてはいないらしい)作法・兵法について近江から教えを乞われる事もあって親交が出来た。

「失礼します。」
立花が促すと、近江はそう断って中へ入る。
「潮江先輩は不在なのですね。お寛ぎのところ失礼致しました。」
近江は、室内に立花しか居ない事を見て取ると、もう一度謝った。



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