04




「わわっ!す…すみません!!」
突然の出来事に動揺を隠せず、思わず謝る。
「いやいや、今のはどう考えても俺が悪いでしょ。ごめんね、吃驚させて。」
くつりと先輩が笑い、その振動が密着した身体から私に伝わる。
ぼっ、と顔に火がついた思いがした。
私たち女を凌ぐ程の妖艶さを孕むお顔でも、いくら華奢だと言われる身体でも、紛れもない男性なのだ。ぴたりと密着した身体は私より広く、程良い筋肉を思わせる胸板と腕の力、そして振動に乗せて耳に届く少し低めの声に、甘い痺れが頭を巡る。

「ゆっくりでいいからね。君が望まない事はしないよ。だから遠慮なく言って欲しい。」
そう言って優しく背を撫でてくれた。思わず私もぎゅうぅぅぅっとしがみついた。
「わ…私は、近江先輩が望む事を叶えたいです!だから…その、」
この人に抱かれるという事実が嬉しかった。実習という、恋仲以外での機会であっても。
だから、せめて近江先輩に悦んで貰えるようにしたい。ただでさえ初めてでお手を煩わせるのだから…。だけど、それを何て言葉にすれば想い諸共届くのかが分からず、言葉に詰まった。
「うん、ありがとう。」
それでも先輩は優しく応えてくれ、私の前髪をさらり、と掻き分けると、ちゅっと額に口付けを落としてくれた。
…涙が零れた。愛しくて愛しくて、切なくて。嬉しいのに、淋しさに似た感情。
堪らず縋りつくように抱きつけば、近江先輩もぎゅっと抱き返してくれ、そのまま私を横抱きにして衝立の向こうへと歩みを進めた。






近江先輩は出来るだけ痛みを伴わないようにと、丹念に愛撫を施してくれた。
丁寧に、愛しむように慈しむように。
本当に私が嫌がるような事はせず、瞳を覗き込んでは窺う。そんな近江先輩の仕草一つひとつが、まるで恋人に施すそれの様で勘違いしたくなる。
私はこの人に愛されているんだと、望まれているんだと錯覚を起こしてしまいそうになった。
(駄目、ダメ。これは実習なの。授業でしかないのだから。)
そうやって最初は自分を戒めていたものの、気持ちが良過ぎて、そして慕情が溢れ返って、いとも簡単に自制を凪攫って行った。



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