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身体を半身ずらして中へと誘導してくれた。
部屋の中は閑散としてはいるものの、人が住む空気の柔らかさと、そして先輩の匂いがした。
それだけで私の胸はぎゅぅぅぅぅっと苦しく締めつけられる。
「適当に座って?」
そう言って座布団を差し出して下さり、お礼を述べて正座する。
「足、崩して大丈夫だからね。」
正面で胡坐をかいて座る近江先輩が、ふっと目元を綻ばせて笑む。
障子を背に座る私と、それに対面するように座る先輩。そして先輩の背後には衝立があり、奥は見えないが、きっと文机やら、ふ…ふと…お布団が!!

「こ…今夜は!何卒、よ…よろ、宜しくお願い致します!!」
どうしたら良いのか分からず、向き合って座っているのも心臓に悪く、勢い良く三つ指をついてお辞儀をする。

「こちらこそ、宜しくお願いします。…と、その前に二つ話しておきたい事があるんだ。もしそれが嫌だったら、相手を換えてもらえるよう先生に相談しに行こうね。」
丁寧にお辞儀を返してくれた近江先輩が、顔を上げる仕草に乗せて私を見る。
どきり。それだけで私の心臓は高鳴った。
「な…なんでしょうか?」
と、おずおずと問うてみれば
「俺ね…情けない事に、その…あまり出来る方では無くてね。もしもの時は性具で代用する事になっちゃうけど大丈夫?」
近江先輩はご自分を情けなく思っているような、こちらを気遣ってくれているような、複雑な表情を浮かべていた。
「だ…大丈夫です、きっと!その、私は初めてなので勝手が分かりませんが、きっと痛いのには変わりないでしょうし…はっ!違います!そうじゃなくて!えっと、痛くても近江先輩がお相手して下さるなら…その…」
私はいっぱいいっぱい過ぎて、近江先輩が相手でも払拭しきれなかった未知の痛さへの恐怖と、先輩が相手と言う事に舞い上がっている事までも吐露してしまった。…恥ずかしすぎて泣きたい…うわぁ〜ん!私の馬鹿!!

「ごめんね、ありがとう。…もう一つは、口付けは唇以外ならば大歓迎です。」
おどけた様に唇に指を当てて笑む近江先輩。一瞬ぽかんとしてしまった。
「ふふっ、分かりました。唇以外ですね。」
自然に笑みが零れ、緊張が少し解けた。
どうして唇は駄目なのか、少し疑問にも思ったけれど、それは人の好き好き。深くは考えないようにした。



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