03




くすぐったいのか、鴻は少し身じろぎをして「俺はお前の弱味になるのか。ならせいぜい弱みで居られるように努力しよう。」とからかってきた。
なんとなく余裕面なのが癪で、そのまま耳を食んでやれば「・・・っ」と一瞬息を呑む音がする。にやり、そう私は胸中で優越に浸る。

「こら、三郎。」
やんわりと鴻は私の両肩を押して身体を離そうとする。
仕方無しに両者の間に少し空間を作り、正面から鴻の顔をじっと見た。
「・・・なぁ、お前、今夜色の実習日だよな。」
そう唐突に話題を持ち掛ければ、きょとんとした鴻が私を見上げる。
「うん、そうだよ。それがどうかしたか?」
私はきゅっと眉間に皺を寄せる。
「平然としてんだな。何とも思わないのかよ。女を抱くんだぞ。」
そう語尾を強めれば「そんな事言ったって・・・三郎だって先日実習だったんだろ?普段と変わらないのはお前も同じじゃないか。」と苦笑されてしまった。

鴻は私が苛立っている理由を正しく理解してはいない。
ただ、女を抱く事に平然としている余裕が気に入らないと思っているのか、お前も平然としているじゃないか、同じだろう?と問うているのだ。
違う、そんなところはどうでもいいんだ。私は、“鴻が女を抱く”という行為そのものが嫌なんだ。単なる独占欲と言われてしまえばおしまいだが、嫌なものは嫌だ。
私達の間では、簡単に惚れた腫れた抱くだの何だのなんて言えない。
ここまで培ってきた友情もあれば、それを超越した恋慕もある。だけど、じゃぁ恋慕が勝ったからその想いの丈を伝えて情事に結びたいかというと、それだけの話でもないのだ。
それらだけでは括れない想いというものがあるのだと、私は鴻と出会って初めて知った。

もどかしい。

悪戯に鴻に触れ、またそれを許してもらえている範囲の内はまだ良い。
だけどこういう時、言い表しがたい焦燥と嫉妬と暴力に似た感情が立ち込めるとどうしたらいいの分からなくなる。
口が裂けても抱かせてくれなんて言えないし、私が女なら「じゃぁ、私も抱け!」と乱暴なもの言いも出来ただろうが、しかしそれも適わず。
今夜鴻に抱かれるであろう四年に嫉妬して、鴻に八つ当りをする。



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