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「ごめん、ごめん。いやね、僕はこの時間が好きだなと思って。」
ふふふっと再び笑みを零すと、鴻も瞳を柔らかく細めた。
「俺もこの時間、好きですよ。」
そう言って鴻は鉢へと視線を戻した。
「俺、保健委員会に入ったのは、治療法や薬草の知識が得られる為というのもあったけど、編入当時委員会を見学して回っていた時に、伊作先輩がお一人で薬を擂っている姿を見かけたんです。・・・その時の穏やかな姿に、あぁ、守ってくれる人がこの学園には居るんだなって、漠然と思ったんですよね。」
今思うと“守ってくれる”ってただの幼子の甘えですね、と鴻は照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
それを聞いた僕は、左の胸辺りがぎゅぅぅぅっと縮まる錯覚を起こす。

知識が得られるから。そうとしか所属希望の理由として聞いたことがなかったから、まさか自分が関わっていたなんて思いもしなかった。
ここは常に不運が付き纏い、犬猿される委員会だった。
鴻は出身の関係でか、所作が美しかったので作法委員会に誘われていたし、身のこなしから体育委員会にも誘われていた。珠算もある程度仕事として頭に入れていた事もあって会計委員会からも声が掛かったりと、引く手数多で選び放題だった。
しかし鴻は、全て断っていた。

そんな中、不運でもなく誰かが勧誘したわけでもなく、彼は自ら此処を選んでくれた。

「当時の先輩方・・・今の後輩達も含みそうですが、不運だ何だと言われても本気でこの委員会を苦だと思うどころか、不運だけど不幸じゃないよと胸を張る姿に感動したんですよね。懐が違うというか、自分を二の次にして誰かを助けようとする人情に心打たれたというか。」
ははっ、と鴻は笑った。その逆で僕は零れそうになる涙をぐっと堪える。

伝わっていたのだと、胸が熱くなる。
いや、届けたいなんておこがましいことを思っていたわけではないけれど、それでも僕たちの想いを拾ってくれる人が居るということがこんなにも嬉しいだなんて。
本当、これだから鴻には敵わないなぁ。意識もせず、そうやって誰かの心を掬っていることに気が付いていないでしょう?
そして、それがどれだけ救いになっているか知らないでしょう?



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